聖母のマリ子
グレゴリオの呪いは愛を消す力で、桃の属性は愛を増幅させる力を持っている。
聖女のミアはある程度その力をコントロールできたが、普通の人間にとっては純粋な愛情が必要不可欠であり、『呪いをおさえ込むため』『種をまくため』という感情は邪魔にしかならない。
同様に、王族は桃の属性を持つものを伴侶としなければならないが、血の浄化を目的とすれば純粋な愛情は育たない。グレゴリオでの失敗を重く捉えたミアは、これら全ての情報を神殿の大司教にのみ伝え、絶対秘密厳守とした。
故に王族は王国が呪われていることを知らないまま、『国の繁栄のため』というぼんやりとした理由で桃の属性を持つ者との婚姻を続けていたのだ。
ミアの力は彼女が亡くなった後も威力を発揮し続けていたが、世代を越えるごとに力は弱まり、桃の属性はその数を減らしていく。
桃の属性は数が減っても人知れず浄化を進め呪いをおさえていた。そんな状態で危機感を持つ者が存在するはずがない。
初代国王グレゴリオと聖女のミアは歴史上の人物となり、その存在はいつしか耳心地のよい逸話として語られるようになっていた。その頃には真実を継承しているはずの大司教ですらその重要性を軽視するようになっており、消滅は防ぎようがなかったのかもしれない。
真実を隠すための情報が桃の属性の存在意義を歪め、その力を必要としていない者の間で価値が高まっていく。
桃の属性がより稀少な存在となった時、繁栄のシンボルとして奪い合いが始まった。そうなれば当然新たな種はまかれなくなり、桃の属性は完全に消滅した。
三千年という長い年月を経て呪いはかなり浄化されていたが、消滅には至っていない。桃の属性が消滅したことで直ちに世界が滅びることはなかったが、呪いは確実に国を蝕み始めていた。
呪いの力で人々の愛情は希薄になり、その結果子供が産まれにくくなっていく。
目に見えて出生率が下がり、予言の聖母が現れ、その聖母が桃の属性を有していたことが判明し、大司教はそこではじめて桃の属性の重要性に気がついたのだ。
長い歴史の中で禁忌とされていることは桃の属性だけではない。それは数ある内のひとつでしかなく、代替えの儀式でそれらを保管する蔵の鍵を渡される‥‥真実の継承とは名ばかりで実際は何も知らされてないに等しかった。
とはいえ、桃の属性を消滅させた責任が神殿にあるのは明白だろう。
どこまでを聖母に話すべきなのか‥‥その判断を迫られることになった不運を嘆かずにはいられない。
「はああ‥‥‥‥」
大司教は頭を抱え、大きくため息を吐いた。
聖女のミアはある程度その力をコントロールできたが、普通の人間にとっては純粋な愛情が必要不可欠であり、『呪いをおさえ込むため』『種をまくため』という感情は邪魔にしかならない。
同様に、王族は桃の属性を持つものを伴侶としなければならないが、血の浄化を目的とすれば純粋な愛情は育たない。グレゴリオでの失敗を重く捉えたミアは、これら全ての情報を神殿の大司教にのみ伝え、絶対秘密厳守とした。
故に王族は王国が呪われていることを知らないまま、『国の繁栄のため』というぼんやりとした理由で桃の属性を持つ者との婚姻を続けていたのだ。
ミアの力は彼女が亡くなった後も威力を発揮し続けていたが、世代を越えるごとに力は弱まり、桃の属性はその数を減らしていく。
桃の属性は数が減っても人知れず浄化を進め呪いをおさえていた。そんな状態で危機感を持つ者が存在するはずがない。
初代国王グレゴリオと聖女のミアは歴史上の人物となり、その存在はいつしか耳心地のよい逸話として語られるようになっていた。その頃には真実を継承しているはずの大司教ですらその重要性を軽視するようになっており、消滅は防ぎようがなかったのかもしれない。
真実を隠すための情報が桃の属性の存在意義を歪め、その力を必要としていない者の間で価値が高まっていく。
桃の属性がより稀少な存在となった時、繁栄のシンボルとして奪い合いが始まった。そうなれば当然新たな種はまかれなくなり、桃の属性は完全に消滅した。
三千年という長い年月を経て呪いはかなり浄化されていたが、消滅には至っていない。桃の属性が消滅したことで直ちに世界が滅びることはなかったが、呪いは確実に国を蝕み始めていた。
呪いの力で人々の愛情は希薄になり、その結果子供が産まれにくくなっていく。
目に見えて出生率が下がり、予言の聖母が現れ、その聖母が桃の属性を有していたことが判明し、大司教はそこではじめて桃の属性の重要性に気がついたのだ。
長い歴史の中で禁忌とされていることは桃の属性だけではない。それは数ある内のひとつでしかなく、代替えの儀式でそれらを保管する蔵の鍵を渡される‥‥真実の継承とは名ばかりで実際は何も知らされてないに等しかった。
とはいえ、桃の属性を消滅させた責任が神殿にあるのは明白だろう。
どこまでを聖母に話すべきなのか‥‥その判断を迫られることになった不運を嘆かずにはいられない。
「はああ‥‥‥‥」
大司教は頭を抱え、大きくため息を吐いた。