聖母のマリ子

嫉妬(王太子視点)

 異世界から来たという聖母はとても不思議な女性だった。

 見ためは少女のように幼いのに、話してみればその中身はとても子供とは思えない。聞けば聖母の転生前の年齢は26歳で、俺より大分年上の女性だったのだ。

 はじめは純粋に聖母が以前いたという異世界の話に興味を持った。魔法がないというその世界では俺の想像を遥かに越える文明が発達しているらしく、その全てが新鮮で、俺は時間を忘れて聖母の話に没頭した。

 聖母と過ごす時間はとても有意義で、もっと彼女の話を聞きたいと考えるようになった。そして俺の関心が聖母自身へと向かったのは極々自然なことだろう。

 もっと、もっと聖母のことを知りたい‥‥

 予定されている茶会だけでは足らなくて仕事を抜けて聖母に会いに行こうとする俺を、側近のジェラルドは驚きと呆れが半々といった感じで見守ってくれている。王宮の侍女達も似たようなもので、予定外に顔を出す俺をいつも暖かく迎え入れてくれている。

 聖母はどうかといえば‥‥一言で表すとするなら‥‥『かわいい』である。

 聖母のいた世界にも『エスコート』という概念はあるという。だが彼女が暮らしていた国ではそれを目にする機会がほとんどないらしい。

 そのせいなのか、聖母は軽く手をとっただけでわかりやすく動揺しているようだった。

 俺にとっては女性をエスコートするのは当たり前のことで、フロリアーナが婚約者だった時にもしていたマナーのひとつでしかない。もちろんフロリアーナもそれを当然のものとして受けていて、それに対して俺が何か思うこともなかった。

 ところが聖母は差し出された俺の手に軽く触れるだけで明らかに照れた様子で顔を隠すように俯いてしまう‥‥

 確か聖母は転生前、結婚して子供を産んだはずじゃなかったのか?子作りをしたなら手を触れる以上のこともあっただろうに‥‥もしやこことは違う方法で子作りをしていたのだろうか?

 ‥‥‥‥悪くない。

 もし聖母がこの世界の子作りを経験したことがないのだとしたら、俺はそれを好ましいと感じた。

 中身は俺以上に大人な聖母だが、見ためは幼く、反応も随分とかわいらしい‥‥そんな彼女との閨を想像して、俺はこれまで感じたことのない、微かな興奮を覚えた。

 聖母が恥ずかしがれば恥ずかしがる程その興奮は高まっていき、俺の行動をエスカレートさせていく。

 もっと、もっとだ‥‥彼女の全てを自分のものにしたい‥‥

 腹の奥から聞こえてくるその声を、俺は理性で押し込めるようになっていた。結婚まで残り僅か。このなんともし難い衝動をどうにか我慢し続けなければ‥‥
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