聖母のマリ子

闇落ち

「童貞なら童貞だって最初から正直に言ってくれれば良かったのにー」

「ちょ!マ、マリコ様!そんな大きな声で!本当にやめて下さいよー」

「ブルーノが変に見栄を張ったりするから余計に恥ずかしい思いをするんだよ?自業自得じゃない?」

「いや、それとこれとは話が違いますよ?第一これは男の沽券に関わる問題です!俺にだって守りたい最後の一線があるんです!」

「いやいや、そんな格好いい言い方してもねえ‥‥?その点ジュリアは潔かったよ?ブルーノはもっと堂々とした方がいい。童貞を負いめだと感じてる時点で新たなチャンスを逃してる可能性を感じる」

「マリコ様の容赦がなさ過ぎて酷い‥‥」

 私はブルーノに愚痴りながら王妃教育のために用意された部屋へと向かう。

 そんなまさかでブルーノにも恋愛経験がないと判明した。ブルーノは騎士で貴族でイケメンの健康な28歳なのに、なんでなの?神殿所属だからか?
 
「はあ‥‥まいったなあ‥‥」

 ブルーノも駄目ならもう完全に手詰まりである。こうなったら手探りでどうにか乗り越えるしかあるまい。

 最近大分字を読めるようになってきたし、恋愛小説でも読んでみる?‥‥いや、創作系は大概ファンタジーだ。あまり参考にはならない気がする。

 とりあえずは恋愛小説よりも次の授業のことを考えよう‥‥次の授業は歴史。国名やら人名やらが沢山出てくるから本当に厄介で、覚えられる気が全くしない。

 扉の前で気合いを入れ直し、気持ちを切り替えて扉を開くと‥‥そこには、先生ではなく王太子が待っていた。

「‥‥‥‥え?」

「聖母殿、待っていたよ。話があるから予定を変更させてもらったんだ。すまないが、護衛は外で待機してもらえるかな?」

 有無を言わさぬ雰囲気に、言われた通りにすべきだと判断した私は、ブルーノを部屋の外に残してひとりで入室し、扉を閉めた。

 すすめられるままソファーに座ると、王太子自らお茶を入れてくれるという。

 いつも部屋にいるはずの侍女やメイドも見当たらず、完全に2人きり‥‥ただならぬ雰囲気が漂い続けており、王太子の様子は明らかにいつもと違う。

 何?なんかあったの?それとも私がなんかしちゃったのか?

 『カチャ』

 ん?今の音は何?‥‥まさか鍵をかけた?

 焦って扉の方へ振り向くと、王太子が微笑みながら近づいてきてテーブルにお茶を置き、私のすぐ隣に腰をおろした。

「聖母殿」

「‥‥‥‥はい」

「私達は少し話し合いが足りないみたいだね」

 そう言って微笑む王太子の目が笑ってなくて怖過ぎるんですけど‥‥
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