聖母のマリ子
「スカルファロット大神殿にて、大司教を仰せつかっております、ガウディーノ・デ・サンクティスと申します。以後、お見知りおきを」

 そう言って深々と頭を下げる大司教様とやらのつるぴか加減には、見覚えがあった。

 教会で私が神様だと思ったお爺さんは、神様ではなく大司教様だったらしい。

 宗教とかに詳しくないから、大司教がどれほどの地位にある人なのかはわからない。神様よりは下。神父よりは偉そう。大がついてて年配だからまあまあ偉そう?

「聖母様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 聖母様って‥‥やっぱり私のことなわけ?どういうこと?

「‥‥三上マリ子です。あー、三上が性で名がマリ子です」

「マリコ様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?私のことはガウディーノとお呼び下さい」

「あー‥‥はい」

「ここはモンテヴェルディ王国といって、三千年以上の歴史を持った大国です」

 モンテ‥‥なんちゃら?なんて国は聞いたことない。いくら頭が悪くても、大きな国くらいは知ってるはず。モンテカルロなら聞いたことがあるけど‥‥確か国名じゃなかった気がする。

「この国はかつて戦争をしていた時代もありましたが、現在では長く平和が続いております。ですがこの数十年の間で出生率が激減し、このままではいずれ国が滅亡してもおかしくないと言われるまでになってしまいました」

 うんうん。日本も同じだよ。平和で文明が進むと、どんな国でも経験する道なのかもねー。

「数百年前、ある高名な神官により、こうなる未来が予知されておりました。子が生まれにくくなり、国が滅びると。その神官はこうも予言されたのです。その時、異世界より聖母が降臨し、国は救われる‥‥」

 ん?

「そして今、マリコ様が降臨されたのです」

 え?ちょっと待って?なんか色々聞き捨てならないんですけど?

「私が聖母?」

「はい」

「異世界から降臨?」

「はい」

「私が国を救う?」

「はい」

「どうやって?」

「さあ?」

「私、普通に人間ですけど?」

「いえ、マリコ様は聖母様です」

「いやいやいや」

「いえ、聖母様です」

「いや、本当無理だから!私に少子化止める力があったら、日本の少子化止まってたから!」

「そう言われましても‥‥」

「いやいや、国の偉い人達は一体何をしているのかな?何か対策とかしてるの?まさか、いつ降臨するかもわからない聖母をあてにして、何もしてないとかないよねー!?」

 お爺さんが、露骨に目をそらした。

 終わったわ。この国。
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