聖母のマリ子
「私達が夫婦になるまで残り僅かだが、聖母殿の準備がまだ整っていないようだ」

 おお‥‥やっぱり私のことでお怒りなのか。

「す、すみません‥‥元々時間が足りなかったのに、私のわがままで王妃教育を中断してしまったから‥‥」

「ああ、そのことなら問題ない。王妃教育は結婚してからも続ければいい‥‥時間はたっぷりあるからね?」

 え?王妃教育のことじゃないの?じゃあ一体なんの話をしてるんだ?

「あの護衛‥‥ブルーノ、だったか?」

 王太子が扉の向こうにいるであろうブルーノに刺すような視線を向けた。

「聖母殿は、彼のことが好きなのか?」

「は?」

 予想外の質問に、うっかり間抜け面をさらしたままで思考停止状態になってしまった。

「だとしても、あなたは私の妃だ。それは絶対に覆らない。だから諦めて私のものになるべきだ‥‥身も心も、全て私のものに‥‥」

 なんか王太子から暗黒オーラ出ちゃってないか?やばいやばい、なんかやばい。

「殿下?ちょっと一旦落ち着きましょ?ね?」

「落ち着いていられるわけがない!」

 突然語気を強められ、驚いて体が強張る。

 王太子が手を伸ばし、その指が私の頬を優しくなぞった。

「私がどれだけあなたを欲していると思う?」

 ああ‥‥駄目だ。目の奥に闇を感じる。落ち着いたと見せかけて闇落ちしてるパターンだわ。

「いつでもこの唇にむしゃぶりつきたいと思ってるし、誰の目にも触れないように鎖でつないで王宮の奥深くに閉じ込めてしまいたい‥‥」

 ほらねーヤンデレ発言きたわー。何これ。どうしたらいいの‥‥

「で、殿下!あの!私、ブルーノのこと、全然好きじゃないですよ!?」

「そんなの信じられない。現に今だって、私はあなたに名前すら呼んでもらえない」

「‥‥エ、エドアルド、様?」

「ふふっ、脅してあなたの心も手に入れられたら良かったのに‥‥」

 やばい!やばい!この闇落ち王子、どうしたら止められるの!?

「マリコ‥‥私はあなたを愛しているんだ。身も心も、あなたの全てが欲しい。どうすれば私はあなたの心を手に入れられる?」

 迫りくる王太子の美し過ぎる顔面。ふいに肩を押され、ソファーで仰向けになった。上からほの暗い視線を注がれる。

「そうだ、あなたの心が堕ちてくるまで、抱いて抱いて抱きつくしてみようか?」

 嘘でしょ!?私、レイプされて抱き潰されて監禁されちゃう系聖母になっちゃうのー!?
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