聖母のマリ子

溺愛

 その後の展開は何パターンか予想できた。

 あんなことがあったわけだし、気まずくなっちゃうパターン。私的にはこれが一番濃厚かなと思った。

 他には、私にグーパンされたことで新たな扉を開いてしまうパターンや、やっぱり闇落ちパターンとかもあるにはあったが‥‥

 選ばれたのは『溺愛パターン』でした。

「昨日は本当にどうかしてた。心から反省してる。どうか許して欲しい」

 翌日、王宮に到着して早々、挨拶も飛ばして頭を下げられた。それこそ土下座する勢いで。

 周りの目もあり、すぐに頭を上げてもらう。

「私の方こそ殿下に手を上げたりして本当に申し訳ありませんでした。それに私が何か誤解を招くようなことをしてしまったんですよね?それも反省しています」

 お互いに謝罪を終え、その日は王妃教育を休みにして仲直りのために2人でゆっくり過ごそうと庭園に誘われた。

「ところで‥‥昨日せっかく名前で読んでくれたのだから、このままお互い名前で呼び合いたいのだが‥‥構わないだろうか?」

 昨日のことを蒸し返すようで少し気まずく感じているのか、王太子が上目遣いで様子を伺ってきてちょっとかわいい。

「ええ、もちろん構いませんよ」

「私のことはエドと‥‥それから、できればもっと気安く話してくれると嬉しい」

「その方が気楽だしそうさせてもらえると私も嬉しい。ありがとう、エド」

 18歳のエドと気安く話すと、年の離れた弟みたいな気分になるかと思っていた。でもエドは日本の若者とは違って王族らしい話し方をする。ジュリアやブルーノと話す時とも違う、なんか不思議な感じ。

 それでもこれまでよりは距離が近くなり会話も弾む。そのせいか、もうすぐこの人と夫婦になるのだとはじめて実感がわいた気がした。そうだ、私はエドと家族になるんだ。

 昨日はどうなることかと思ったけど、これならなんとかうまくやっていけそうかも。

 なんだか少し安心して気が緩んだ時、エドが突然、被っていたネコを脱ぎ捨てた。

「昨日あなたが護衛と庭園にいた時、実は少し話を聞いてしまったんだ。あなたは護衛の恋愛観とやらを聞きたがっていた‥‥」

 ああ、なる程。それであんな誤解をして闇落ちしかけたのか‥‥

「そんなの、私に聞いてくれたら、いくらでも聞かせてあげるのに」

 あれ?エドの様子がなんかおかしい?また闇落ちか?‥‥いや、昨日とはちょっと違う。闇ではない。空気が一気にピンク色になってしまった‥‥
< 42 / 60 >

この作品をシェア

pagetop