聖母のマリ子

結婚式

 結婚式は私が降臨したあの大聖堂で執り行われる。神殿で暮らしている私はいつもの部屋で準備をされていた。

 普段はジュリアの魔法でささっと済ませるアレコレを、まだ日も昇っていないような早朝から、侍女やメイドが数人がかりでじっくり念入りに行っていく‥‥

「ふああ~~」

 半年以上振りの湯船に浸かり、私は腹の底から息を吐き出した。いつも色々してくれているジュリアには申し訳ないが、やっぱお風呂は最高だわ。

「マリコ様、お体を洗わせて頂きます」

「‥‥え?え!?」

 盲点だった。すっかり日本気分でお風呂を堪能していたが、ここは異世界。自分で体を洗うことは許されなかった。

「このまま軽くマッサージをして、お風呂の後にオイルを使って全身の磨き上げと絞り上げをさせて頂きますね?」

 お、おう。まあ、エステだと思えばいいか‥‥

「うぎゃーーー!痛い!痛たたたっ!」

「もう少しの辛抱です!魔法では流しきれない凝りや張りがなくなれば、本来の美しさが甦りますから!最高の状態で式に挑みましょう!」

「ひーーー!!!」

 ジュリアが気休め程度に治癒魔法をかけてくれていたが、焼け石に水である。

 お願い!誰か!私の骨折を治したあの凄腕魔法士を連れて来てー!

「はああ~」

 痛いパートが終われば、その後は天国のようだった。マッサージ、まじ最高過ぎる。

「この後化粧と髪結いをして、最後に着付けをして終了です。あと少しの辛抱ですので頑張りましょう!」

 どこぞの熱血テニスプレイヤー風の侍女に励まされながら、準備はどんどん進んでいく。

「ぐおお、お‥‥お‥‥‥‥っ!」

「マリコ様!もう少しです!最後にもうひと絞りいきますよ!息を吸って、吐いて‥‥はい!止める!」

「ぐはっ!‥‥あ‥‥ああ‥‥っ!」

 コルセットは聞きしに勝る凶悪さだった。これを考えた人は、多分馬鹿なんだと思う。命より大切なものなんてないはずだ。もう二度とコルセットは装着したくない。

 そしてようやくドレスにたどり着き、全ての準備が完了した。姿見に映った人物は、最早私ではなくなっていた‥‥

「美しい‥‥」

 自分の凄まじい変わりようにうっかり自画自賛してしまったのかと思ったら、先に準備を終えて様子を見にきたエドが発した私への称賛の言葉だった。

「ありがとう。エドも素敵ね。凄く格好いい」

 もうすぐ私達の結婚式が始まる。
< 44 / 60 >

この作品をシェア

pagetop