聖母のマリ子
 石造りで荘厳な雰囲気が漂う大聖堂が、今日は花やリボンで華やかに装飾され、以前来た時とは違った印象を受けた。

 それは、大勢の人が集まっているせいでもあるだろう。

 国内の有力貴族をはじめ、周辺国からも多くの賓客が招かれているらしい。王妃教育でその名前と姿絵を優先的に頭に叩き込まれたが、コルセットを締める時に空気と一緒に抜けていった可能性を感じる‥‥

 結婚式の後、神殿から城までは馬車に乗ってパレードが行われ、宮殿に集まった国民への挨拶、国内の貴族へ向けた披露パーティー、国外から来た賓客のための晩餐会と、夜まで行事が延々と続く予定となっている。

 私は生きて今日を乗り切ることができるのだろうか‥‥?

「緊張しているようだね?」

 異世界から来た私に身寄りはおらず、大司教は式を執り行うため、私は今バージンロードを国王陛下と歩いていた。

「慣れなくて大変だとは思うが、面倒なことはエドアルドに任せて気楽にしていればいい。今日の主役は君なんだから、楽しむくらいの気持ちでね」

 そう言って微笑んだ陛下は、組まれていない方の手で私の手を励ますように優しく包む。

 これまでほとんど話す機会のなかった陛下だが、凄くいい人そうで安心した。

「うん、少し力が抜けたかな?そうじゃないと今日は夜まで持たないからね」

 実際の年齢はわからないが、陛下はまだ40歳前後のように見える。エドとは髪色くらいしか共通点がないように思えたが‥‥目立たないようにウィンクまで飛ばしてきたりして‥‥エドのあの感じは父親由来だったらしい。

「おっと‥‥これ以上君と仲良くしてると息子に殺されてしまいそうだ。君もなかなか大変そうだね。どうぞお幸せに」

 陛下が慌てて私の手を離し、エドの元へ送り出してくれた。

 陛下に触れられていた手をエドが包み込んで更に口づける‥‥これは絶対、念入りなマーキング行動だ。今から結婚するというのに自分の親にまで嫉妬するエドには呆れてしまうが、それ程愛されているのだという嬉しさが勝る。

 あの闇落ち事件以降、エドの深過ぎる愛を目の当たりにした私は疑うことを諦めた。

 あれから毎日のように愛を囁かれ続け、疑うことが馬鹿らしいと感じるようになったのだ。

 だって、エドはこれ以上ないくらい私のことが大好きなのだから。

 この1年ちょっと、辛いことが沢山あった。

 予想外の妊娠、結婚、出産、死、別れ‥‥挙句の果ては転生して聖母となり、王子様と結婚。

 多分今後もあり得ないことが続くと思う。

 だけど、エドとの結婚はきっと私に幸福をもたらしてくれる。エドは信じても大丈夫。エドなら好きになっても大丈夫。
< 45 / 60 >

この作品をシェア

pagetop