聖母のマリ子

ジャンさん

 魔力放出に関する経過観察によりジャンさんの予測がおおよそ正しいことが証明され、例の恥ずかし過ぎる質疑応答は無事終了した。

 それ以外のことで新たな発見はないものの特に困るということもなく、王妃教育を受けたりジャンさんから魔力について学んだりしながら日々過ごしている。

 前世で心当たりがない程無自覚なまま妊娠していた私は、自分がよっぽど妊娠しやすい体質なのかと思っていた。

 ところが『魔力補填』という名目で毎晩あり得ない程、所謂『胎内への放出』をされているにも関わらず、私はいまだに妊娠していない。

 これはこれでまずいのでは?と、最近少しだけ焦っていた。なぜなら私は聖母で、『目指せ100人!』なのだ。ノルマがあるかは確認していないが、これでは聖母としての使命を果たしていないことになる。

 以前私達が桃の属性について話しているのを耳にしているので、おそらくエドは私が桃の属性を持っていることに気づいている。

 だがそれに対してエドから何か言われることはなく、彼はただひたすらに私を愛し続け、その愛情は疑う余地が全くない。

 エドに惜しみなく愛情を注がれて、私はかつてない程の幸せを感じていた。

 こんなに幸せで大丈夫なのだろうか?と逆に不安を感じてしまいそうになるが、これについては大司教も無反応だし、まだ心配する段階ではないのだろう。

「そういえばこの1年で魔力量がもの凄い勢いで増えてるんですけど、マリコ様、気づいてましたか?」

 ジャンさんが突然思いついたようにそんなことを言い出したのだが、これまでそんな指摘を受けたことはなかったので、もちろん気づいていなかった。

「全然知らなかったけど、普通は気づくの?」

「いえ、普通はこんなに増えないんですよ。魔力の消費と補填を毎日繰り返してるせいですかね?魔力が空になるまで消費することは稀ですし、その後すぐに限界を越えて補填するなんて普通じゃあり得ませんからねー」

 私とエドの夜の事情をたっぷり経過観察したジャンさんは、いつもなんの違和感もなく下ネタをぶっ込んでくる。これは完全にセクハラだと思うが、どこに訴えるべきかがわからない。

「一見関係ないように思えますが、多分これも桃の属性に関わる聖母特有の何かだと思うんですよねー‥‥魔力の放出も増加も絶対に何か意味があるはずなんですけど、それが何かがわからない。実にもどかしい‥‥」

 ただのセクハラ親父と見せかけて、ジャンさんはちゃんと研究者だった。疑って申し訳ないことをした。
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