聖母のマリ子

継承の謎

 赤ちゃんは『アマリリス』と名付けられた。

 ペニーが乳母として仕えてくれているが、できるだけ自分でお世話がしたくてスケジュールを調整してもらうことにした。

 赤ちゃんのいる生活は慌ただしく賑やかではあるが、心は穏やかでとても充実している。

「リリィの様子を見にきたよ‥‥ああ、お姫様はお昼寝中だったか。マリコも疲れてるだろ?一緒にお昼寝した方がいいんじゃないか?」

 エドが休憩時間にやってくるのは毎日の恒例になっている。彼も娘がかわいくてしょうがないらしい。

「眠れないなら私が添い寝をしてあげようか?それとも魔力を補填した方がいい?」

 この発言はスルーだ。彼にはジュリアが見えていないのかもしれない。昼間からピンクオーラを振り撒くのは是非ともやめて欲しい。

「ああ、そういえばデシャネル公国のエミリアン殿下から王女のことで親書が届いたんだ」

 エミリアン殿下は妃殿下のナタリー様と共に私達の結婚式に参列して下さり、晩餐会では気さくなおふたりのおかげで私も会話を楽しむことができた。

 ナタリー様とはその後も手紙で親交を深めており、1年前王女様が誕生した時にはお祝いの品を贈らせて頂いた。

「ナタリー様からは何も伺ってないけど、王女様がどうかなさったの?」

「王女に『桃の属性』が出現した。1歳で属性が判明することは稀だが、宮廷の魔導師がたまたま王女から魔力が放出されていることに気がついて魔力鑑定をしたそうだから間違いないらしい。公国では既に箝口令が敷かれ、目下原因を探っている最中だそうだ」

「もしかして‥‥私、疑われてる?」

「‥‥だろうな」

 桃の属性についての情報はまだ開示されておらず、何故かエドにも報告されないままになっている。

 私の判断で話せる内容ではないと理解してくれているのか、エドはこのことに関しては沈黙を守っていた。

 桃の属性のことはほとんど何もわかっていないし、エドに隠しておく意味なんてないと思えるんだけど‥‥

 少なくとも属性は遺伝で受け継がれるんだから、多分私は無関係だろう。

「わからないけど、私が知る限りでは無関係だと思うよ?でも、ナタリー様達はきっと不安だよね‥‥大司教様やジャンさんなら何かわかるかもしれないから、エドが直接聞いてみたら?」

「うーん‥‥あの爺さんはくせものだから多分聞いても無駄だろうな。だがあの眼鏡は変態だから気にくわない‥‥」

 やっぱりエドはジャンさんを嫌っていた。
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