聖母のマリ子
 吐き気は数日で収まり一週間程で固形物を食べられるようになった。そこから徐々に食べる量を増やし、まずは歩けるようになる為リハビリを開始する。

 ひと月程で痩せこけていた頬が戻り、肌艶も良くなってきて、私はあることに気づいた。

「なんか‥‥顔が幼い?」

 化粧をしてないせいかとも思ったが、それにしても違和感があり過ぎる。

「‥‥お気づきではないようでしたので黙っておりましたが、恐らくマリコ様はこちらに来る直前の状態で降臨されました。すぐに傷がふさがり徐々に回復しているようでしたので、私共は特に治癒は施しておりません。ただ、回復と共に顔や体が少し若返ったようにお見受け致しました」

 だよね?中学生‥‥とまでは言わない。でも明らかに、高校生くらいの時の顔立ちに戻っているのだ。

 記憶では開腹すると言っていた。慌てて下腹部を確認すると傷痕ひとつ残っておらず、出産したとは思えないスマートさである。

「私‥‥赤ちゃんを産んだばかりだったの」

「はい‥‥お体の様子でなんとなく。うわ言でお子様をお呼びになることもありましたので、そうだろうとは思っておりました」

 そうか、ジュリアは色々わかってて、それでも黙って見守ってくれていたのか。

 私はこの国にとって救世主のような存在らしい。なのにかれこれふた月も、何もしないでここにとどまっているのだ。本来なら早く動けと催促されていてもおかしくない。

 それを良しとしてくれているのは、私の事情を慮ってくれているからなのだろう。

 赤ちゃんのことを考えると、今もなお胸が苦しい。気を抜けば、涙が止まらなくなる。

 でも、このままではいられない。

「ねえ、聖母って何をすればいいの?」

 大司教のお爺さんも具体的な方法を把握していなかったはずだ。その後、何か対策を検討してくれていればいいのだが‥‥

「マリコ様はご自身に魔力を感じることはございますか?」

「え?いや、特に何も感じないけど」

「お食事をとるようになってから、少しずつですがマリコ様から魔力を感じるようになっております」

「そうなの?じゃあ、私もそろそろ魔法を使えるようになるってこと?」

「一般的に3~4歳頃から浄化魔法を使えるようになるので、残念ですがそれはまだ先になるかと思われます」

 期待させておいてそれはなくない?じゃあなんで魔力の話をしたのかな?
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