偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

「可愛いなと思って」

 だが、女が喜ぶはずのその言葉に、りとはムッとする。

「バカにしてるんでしょ!」

「してない」

 目尻にキスをする。

「してる! お見合い、したんでしょ!?」

「……ああ」

 頬にも。

「プレゼントなんか貰って!」

「ああ」

 耳たぶを食む。

「私じゃなくても、いいくせに!」

 りとの顎を掴み、上向かせる。

「だったら見合いなんてするか!」

「――っ」

 噛みつくようにキスをした。

 唇を閉じる間も与えず、舌を挿し込む。

「んっ……」

 苦しそうな声にすら興奮する。

 膝を彼女の足の間に割り入れ、強く腰を抱き寄せた。

 りとの両手が俺の肩を掴む。

 押したり叩いたりするわけでなく、ただギュッとジャケットを強く握る。

 離さない、離したくないと言うように。

 キスをしたまま、両手でりとの腰を掴むと、抱き上げた。

 力登のようにはいかないが、それでも彼女の足が浮き、俺は尻の下に腕を入れて抱えた。

 肩を掴んでいたりとの手が、俺の首にしがみつく。

 その間も、絡めた舌が離れることはない。

 ゆっくりと移動し、寝室を目指す。

 落ちそうで怖いのか、りとの足が俺の腰に絡む。

 寝室のドアを開け放ち、真っ直ぐベッドを目指す。

 そして、ベッドの端で腰を下ろした。

 俺に跨る格好のりとのパーカーの裾を掴んでめくり上げる。

 唇が離れ、互いの唾液で濡れた唇がヒヤリとした。

 何も言わなくても、りとは腕を上げ、俺は難なくパーカーを脱がせる。

「あ、くつ……」

 スニーカーを履いたままだと思い出した彼女が身じろぐ。

 俺は腕を捻って彼女の靴を脱がせた。

 彼女のむき出しの肩に口づけながら、腰から背中をなぞり、くすぐる。

 ふっと弾んだ吐息が俺の首筋に吹いた。

 両手で背中を撫で、脇から胸へと滑らせる。

「りと……」

 彼女がわずかに腕を緩め、顔を上げる。

 俺と彼女の身体の隙間に手を挿し入れ、柔らかな乳房を揉み上げた。

 りとの髪が俺の頬を覆い、目を閉じる。

 熱く柔らかい彼女の唇が、俺を捉えた。

「ん……」

 口を開くと、更に熱くて柔らかい舌が侵入してくる。

 りとの手が首から肩に下り、ワイシャツの襟を広げ、素肌に触れる。

 そして、ワイシャツを肩から腕に落とす。

 俺はりとの腰を掴み、身体を反転させた。

 ベッドに横たわる半裸のりとを見下ろす。

 ワイシャツを脱ぎ捨て、ベルトを外した。

 俺はりとのジーンズのファスナーを下ろし、下着と一緒に足から抜いた。

「りと」

 一糸纏わぬ姿になったりとに圧し掛かる。

 半分だけ開いたドアから差し込む廊下の照明は、俺たちの上半身を照らしている。

 だから、彼女が恥ずかしそうに、けれど真っ直ぐに俺を見ているのがわかった。

「あいつはお前に触れたか?」

「いいえ」

 名を言わずともわかったのだろう。

 りとは即答した。

「力登には?」

「近寄りもしないわ」

「そうか」

「あなたを呼んでる」

「え?」

 りとの瞳がきらりと揺れる。

「毎日……『しっちょーは?』って……」

 目尻から溢れた涙がこめかみを伝う。

 俺は、指の腹でそれを拭った。
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