偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

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「ママ、キレーね!」

 私は、満面の笑みでぴょんぴょん飛び跳ねながら褒めてくれる愛息子の頭を撫でた。

「ありがとう。力登もカッコいいよ」

「ホント!? しっちょ――」

 力登がハッとして自分の口を両手で押さえた。

『しっちょー』と言ってはいけない。

 ぬいぐるみの名前の件から、力登はそれをしっかり守っている。

 大人の都合で我慢を強いるのは、心苦しい。

 だが、登さんの機嫌を損ねて力登に何かされるのではという恐怖心から、私は力登に理不尽を言っている。

「今度、犬のしっちょーにもりぼんを買ってあげようね」

 息子の耳元でそう言うと、力登が私の頬にキスをした。

「ありあと!」

 最近の力登は、『おう!』を『おっけー』、『サンキュー』を『ありあと』と言うようになった。

 この家に住み始めてから、登さんが力登の言葉使いが気に入らないと言ったせい。

「時間だ、行くぞ」

 ノックもなしに部屋に入って来た登さんは、私を見て、力登を見て、また私を見る。

 身体の線を隠せないタイトなワンピースは、梓さんと会った翌日に家に届いた。

 ドレスのレンタルを頼むため、ホテルに電話をしようとしていた、まさにその時に。

 自分では絶対に選ばないスタイル。

 グレーで艶のある生地、キャミソールタイプだから肩が露わ。

 伸縮性があるからこそ身体にフィットしているが、踝までの長さがあるし、丈の短いボレロもセット。

 更には、バッグ、低めのピンヒールパンプス、ビスチェにショーツまでセットになっていた。

 受け取った登さんのお母さんは、私がネットで買ったものだと思ったらしく、『私の昔のお着物を用意していたのに、残念だわ』なんて言っていた。

 もちろん、私は買っていない。

 しかも、届いたのはそれだけではなかった。

 力登のタキシードもだ。

 覚えのない贈り物に戸惑ったのは一瞬だったが。

【RRR】

 メッセージカードに書かれていたのは、それだけ。

「りとがそんな服を選ぶとは、意外だな。良く似合ってる」

 登さんの言葉で、首筋が凍り付くような感覚に襲われた。

 私は急いでボレロを羽織る。

「行くぞ」

 私は力登の小さな手を握り、元夫の後に続いた。


 
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