偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
12.断罪パーティー
ぼろぼろと涙を流しながら、高らかと笑う鹿子木ユリア。
気が狂ったと言われたら納得できてしまうほど、異様な光景。
クリスティーナさんは婚約者である滝田に隠し子がいること、ユリアが未成年だった頃から関係が続いていることを知り、婚約破棄した。
慰謝料だけでなく、滝田は多額の賠償金をクリスティーナさんとその実家に支払うことになるだろう。
そうなればもう、社長ではいられないわね……。
滝田と付き合いながら、他の男とも関係をもち、会社の情報を盗ませたユリア。
彼女はなぜ、滝田のためにそこまでしたのか。
「ユリア! 一体どうなってるんだ! お前っ、結婚に乗り気だったろう? 付き合っている男がいるならどうして――」
「――恋愛と結婚は別でしょう? お父様。私は滝田の妻になりたいなどと思ったことはありません」
「なにを言って――」
「――お父様。私は騙されていたんです、滝田に。被害者ですわ? 可哀想な被害者。だから、結婚には何の支障もございません」
会場内が凍り付く。
父親は至って普通に娘を想い、娘の所業に驚き、傷ついている。
そんな父親の元で、どうしてこんなに性格、思考破綻した人間に育つのか。
「バカを言うな……。こんなことをして、結婚など――」
「――できますわ? この会場の誰もが口を噤めばいい。ね? 滝田社長。西堂社長?」
ユリアが持っている紙を左右にひらひら揺らしながら、滝田に近づく。
そして、紙を彼に見せた。
「――――っ!?」
こうも驚くことの連続だと、新たな驚きに声も出ないらしい。
とにかく、滝田は眼球が飛び出そうなほど目を見開き、手を振り上げた。
ユリアがぶたれる、と思った。
きっと、会場中が。
ところが、滝田の手はユリアから紙を奪った。
そして、またもビリビリに破る。
「あら、どうしましょう。西堂社長にもお見せしたかったのに」
ユリアが頬に手を当てて、腰をくねらせた。
涙でも落ちなかった化粧だが、涙が渇いてひび割れている。
「あら、私としたことが二枚入れたつもりが一枚でしたわね。はい、もう一枚」
姫が手品の如く取り出した綺麗な紙を、ユリアに差し出した。
「ありがとうございます」
微笑み合う元妻と愛人。
怖すぎる。
ふと視線を移すと、りとと目が合った。
俺が選んだドレスに身を包み、不安気な表情のりと。
もうずっと、抱きしめたくて堪らない。
りとに全てを打ち明け、姫とは協力関係にあるだけで見合いも何もかも望んだことではないと言いたい。
それに、俺と揃いのタキシードを着た力登を抱き上げたい。
パーティーの前、怜人が力登を連れ出すところをチラッと見ただけだったが、元気そうだ。
雰囲気が違うとはいえ、俺に似ている怜人に懐く前に迎えに行きたい。
りとに触れたくてうずうずしていると、梓ちゃんがりとの隣に移動した。
ヒソヒソと話しながら、りとを登から離してくれる。
登はユリアに名指しされたことで、りとが隣からいなくなったことにも気づいていない。
視線に気づいて顔を向けると、皇丞が呆れ顔で俺を見ていた。隣の社長も。
そして、皇丞の唇が動く。
『み、す、ぎ、だ』
くそっ! 全部三倍速で終わらせたい!
俺の願いも虚しく、ユリアは勿体つけるようにゆっくりと登に近づいて行く。
そして、登の目の前に紙を突き付けた。
「な――っん――!」
こちらも声にならないほどの驚きよう。
「これは――っ! 担当者が別件の発注書と間違えたからだ。ちゃんと修正した!」
登の慌てようを見れば、誰もが嘘だと思うだろう。
「そう? なら、これを然るべきところに提出して調べていただいても構いませんわよね?」
「ユリア! お前っ裏切るのか!」
今度は滝田の怒号が飛ぶ。
だが、眼力だけでも黙らせられるほどの形相でユリアが反論した。
「裏切る!? 裏切ったのはあんたでしょ! 子供がいるなんて聞いてないわ! どんなに遊んでても」らないほどの驚きよう。
それもそのはずだ。