偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
「――嘘だ! そんな、録画とか、そんなものがあるなら、どうして今まで言わなかった!? ないんだろう!? そんなもの、ないから――」
「――やめなさい!!」
悲鳴のような甲高い声。
力登が入って来たドアの方を見ると、着物姿の年配の女性が立っていた。隣には、スーツ姿の、やはり年配の男性。
そして、こちらもやはり大人しくしてはいられなかった、司会者。
「姉さん、やっぱり来ちゃったんだ」
怜人が呟く。
「お客様をご案内したのよ」
司会を頼んだ姉・哉華は、真っ白のブラウスと黒いタイトスカートというホテルスタッフと同じ服装をしているにも関わらず、その存在感はまさに女王様。
身長が百七十近くあるのにヒールのある靴を履くから、怜人と並ぶとほぼ同じ。更に、腰まであるストレートの髪と、くっきりメイク、自信満々の笑み。ついでに、片手を腰に当てる姿は過去に見た庶務課が舞台のドラマのようだ。
哉華なら、脚立も軽々持つだろう。
いや、持てるが、男に持たせる。
哉華が『お客様』と言った年配の男女は、苦々しい表情で登に近づく。
「もう、やめなさい」
女性が呟く。
「母さん……。どうして……」
この会場の映像を共有していたもう一室。
そこには、この年配の夫婦・登の両親がいた。
登の両親を招待すると決めたのは、俺だ。
姫の計画では、登はチョイ役。まさに巻き込まれ役。
だが、俺にとっては違う。
登のためのパーティーだ。
「諦めなさい」
登の父親が力なく言った。
そして、俺の腕の中できゃっきゃっと笑う力登を見て、目頭を押さえた。
「登さん。私が家を出た時、どうしてあなたのご両親が離婚を後押ししてくれたと思うの?」
「どうして……って――」
登が母親を見る。
涙を堪えきれない母親はハンカチで目を覆い、そんな母親を父親は肩を抱いて支える。
「――私たちが間違っていた」
登の父親がそう言うと、母親は「ううっ……」っと嗚咽を漏らした。
「登。録画を見た私と母さんの気持ちがわかるか? 息子が孫に――」
「――だからっ! そんな大それたことじゃない! うるさかったから――」
「――赤ん坊のお前は夜泣きが酷くて、私も母さんも眠れない日々が続いたが、一度だって口を塞いで泣き止ませようなんて思わなかったな」
「……」
「何を言っても許されないんだ。お前は、りとさんに決して消えない恐怖を与えた。だから、離婚したいと言うりとさんの力になるから、録画を使ってお前に離婚を迫ることはしないでほしいと頼んだんだ。だが――」
哀れだ。
息子を守りたい、孫を失いたくない、あわよくば時期がきたら息子と嫁を再婚させたい。
そんな自分勝手な気持ちが、りとを更に苦しめた。
その上、肝心の息子は親の想いに全く気づかない。
「――力登とりとさんを諦めきれなかった私たちにも罪があるな」
「父さ――」
「――今日付で取締役を解任の上、懲戒処分とする」
「は?」
「不正取引とFビルに関しての問題点については、早々に――」
「――俺をっ! 息子を捨てるのか!? そんな――」
「――西堂建設の従業員を路頭に迷わせるわけにはいかない。私の進退は取締役員と株主が決めることだが、決定が下されるまでは社長としてやるべきことをやる」
恐らく、西堂建設はその名を失うだろう。
倒産はないだろうが、西堂の一族が経営権を手放し、それを引き継いだ人物が真っ先にやるのは社名変更のはず。
「そんな……」