偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
腕を緩め、身体を離し、如月さんを見下ろした。
彼女もまた、俺を見上げている。
わけがわからないまま抱きしめられて、困惑しているのだろう。
だが、カツカツと靴音が聞こえ、横目で登の姿を確認し、唇を震わせた。
俺は敢えて、彼女に判断を委ねた。
無理強いする気はない。
こうして抱き合っているだけでも、恋人に見えるだろう。
ただ、登へのダメージはさほど大きくないだろうが。
靴音が近づいてくる。
俺たちはそれに気づかない振りをして、見つめ合ったまま。
動こうとしない彼女に、俺は言った。
「また明日、な」
うなじに回した手の親指で、軽く頬を撫でると、彼女がわずかに目を細めた。
犬か猫みたいだな、と思った。
「おいっ――」
すぐそばまで来てようやく、抱き合っているのが自分の元妻だと気づいたのか、登が声を上げた。
その声に弾かれたように、如月さんが俺の首に腕を回す。
「理人さん」
正直、ここまでするつもりはなかった。
ある意味、事故だ。
衝突事故。
背の低い如月さんが背伸びをして俺の首に腕を回した結果、俺は前のめりになった。
少し、勢いよく。
片手を壁に付き、片手は如月さんの腰を抱く格好になり、背伸びをしてバランスが悪い彼女は、俺の勢いを受け止められず、身体が密着した。
鼻先が触れ合ったのと、俺たちが目を閉じたのは、同時。
甘い香りを唇に感じた。
いや、正確には甘い味。
彼女の頭が壁にぶつからないように、壁に付いていた手を如月さんの頭に回した。
さらに距離が近づく。
腕の中にすっぽりと収まった彼女をきつく抱きしめる。
「ん……」
彼女が小さく喉を鳴らした。
その声に、身体が熱くなる。
唇を開きたい。
そう思った時、強い力で肩を掴まれた。
「なにしてんだ!」
顔を真っ赤にした登が、鼻息を荒くして叫んだ。
ハッとした。
多分、如月さんも。
互いに、見つめ合うというよりは顔を見合わせて、それからパッと視線を逸らした。
たかがキスに夢中になって――!
俺を押し退けた登が、如月さんに詰め寄る。
「りと! 力登はどうしたんだよ! 子供をほっぽって、こんな公共の場所で盛りやがって! それでも――」
「――やめろ!」
今度は俺が登の肩を掴んで如月さんから引きはがした。
如月さんを背中に隠し、登と対峙する。
「力登は眠ってる。りとは俺を見送りに出ただけだ」
「で? 誰に見られるかわからない場所で、ナニしてんだよ! 恥ずかしくないのか!!」
「キスくらいで喚きたてているあんたの方がよほど恥ずかしいと思うが?」
「なんだとっ!?」
登が俺の胸ぐらを掴むが、残念ながら見上げられては凄みを感じない。
俺は登の手を払いのけた。
「りとはもう、あんたの妻じゃない。俺の女だ。近づくな!」
くるりと身体を捻り、如月さんの肩を抱いてドア開ける。
そして、玄関の中に入った。
「しつ――」
「――しっ」
彼女もまた、俺を見上げている。
わけがわからないまま抱きしめられて、困惑しているのだろう。
だが、カツカツと靴音が聞こえ、横目で登の姿を確認し、唇を震わせた。
俺は敢えて、彼女に判断を委ねた。
無理強いする気はない。
こうして抱き合っているだけでも、恋人に見えるだろう。
ただ、登へのダメージはさほど大きくないだろうが。
靴音が近づいてくる。
俺たちはそれに気づかない振りをして、見つめ合ったまま。
動こうとしない彼女に、俺は言った。
「また明日、な」
うなじに回した手の親指で、軽く頬を撫でると、彼女がわずかに目を細めた。
犬か猫みたいだな、と思った。
「おいっ――」
すぐそばまで来てようやく、抱き合っているのが自分の元妻だと気づいたのか、登が声を上げた。
その声に弾かれたように、如月さんが俺の首に腕を回す。
「理人さん」
正直、ここまでするつもりはなかった。
ある意味、事故だ。
衝突事故。
背の低い如月さんが背伸びをして俺の首に腕を回した結果、俺は前のめりになった。
少し、勢いよく。
片手を壁に付き、片手は如月さんの腰を抱く格好になり、背伸びをしてバランスが悪い彼女は、俺の勢いを受け止められず、身体が密着した。
鼻先が触れ合ったのと、俺たちが目を閉じたのは、同時。
甘い香りを唇に感じた。
いや、正確には甘い味。
彼女の頭が壁にぶつからないように、壁に付いていた手を如月さんの頭に回した。
さらに距離が近づく。
腕の中にすっぽりと収まった彼女をきつく抱きしめる。
「ん……」
彼女が小さく喉を鳴らした。
その声に、身体が熱くなる。
唇を開きたい。
そう思った時、強い力で肩を掴まれた。
「なにしてんだ!」
顔を真っ赤にした登が、鼻息を荒くして叫んだ。
ハッとした。
多分、如月さんも。
互いに、見つめ合うというよりは顔を見合わせて、それからパッと視線を逸らした。
たかがキスに夢中になって――!
俺を押し退けた登が、如月さんに詰め寄る。
「りと! 力登はどうしたんだよ! 子供をほっぽって、こんな公共の場所で盛りやがって! それでも――」
「――やめろ!」
今度は俺が登の肩を掴んで如月さんから引きはがした。
如月さんを背中に隠し、登と対峙する。
「力登は眠ってる。りとは俺を見送りに出ただけだ」
「で? 誰に見られるかわからない場所で、ナニしてんだよ! 恥ずかしくないのか!!」
「キスくらいで喚きたてているあんたの方がよほど恥ずかしいと思うが?」
「なんだとっ!?」
登が俺の胸ぐらを掴むが、残念ながら見上げられては凄みを感じない。
俺は登の手を払いのけた。
「りとはもう、あんたの妻じゃない。俺の女だ。近づくな!」
くるりと身体を捻り、如月さんの肩を抱いてドア開ける。
そして、玄関の中に入った。
「しつ――」
「――しっ」