偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
いつもは自分の椅子に座って食べるが、甘えたい時は私の膝に乗る。
昨夜は熱いと感じた息子の身体が、今日は少しひんやりする。
折角良くなってきたのに、私のそばにいては、また熱をぶり返すのではと思うが、仕方がない。
ゆっくりと麺を食べさせてから、残った汁に粉薬を混ぜる。これを気づかれないようにするのが大変。
ジュースやゼリーに混ぜるのを試したがうまくいかず、うどんの汁にたどり着いた。
医学的に良いか悪いか、効能が十分に発揮されるかなどはわからないが、飲まなかったり吐き出されるよりはましだろうという結論に至った。
「りき、もうちょっとねんねしようか」
「や!」
「え?」
「あぽー」
「あ~……」
心配していたことが起きてしまった。
力登が好きなのはわかっていたが、昨日は買わなかった。
時期的に高かったのもあるが、あまり美味しそうに見えなかったのだ。
代わりにバナナを買った。
「バナナは?」
「やっ! あぽー!」
力登が欲しいのは、りんご。
『りんご』をうまく言えなかった頃に、冗談半分で『あぽー』と教えたら定着してしまった。
「あぽーはないの」
見る見るうちに、息子の瞳が涙を浮かべ、瞬きするとぼろりと零れ落ちた。
「あぽ……」
買えばよかった。
昨日、バナナでもいいかと思ってしまった自分を殴りたい。
「ごめんね、力登。ママが元気になったら買いに行こうね」
「やっ!! あぽー!」
二歳児にしては少し言葉が遅い力登だが、今すぐにりんごが食べたい訴えはしっかりできている。
こうなると、ひたすら謝り倒して、他のもので気を逸らすか、泣き疲れて眠るのを待つしかない。
今日に関しては、前者が有効だろう。
寝て起きたばかりの力登が泣き疲れるまでの時間が予測できない。
「パパンは? 食べよ?」
「やっっ!」
だよね……。
薬が効いてきたら寝てくれるだろうか、なんて甘い考えはすぐに吹き飛んだ。
体調が悪いことが拍車をかけて、力登の鳴き声は思わず耳を塞ぎたくなるほど激しくなっていく。
「力登、お願いだから……」
頭が痛い。
体調不良の今は、いつも以上に泣き声が辛い。
「りき……」
抱きしめて見ても暴れて抵抗し、力登は本当にりんごがないのかを確かめにキッチンに走って行った。
そして、きっと、見つからなくてまたさらに大声で泣くのだろう。
あまり泣きすぎると、また熱が上がってしまう。
私は、りんごの代わりになる物を探そうと思い、のそのそとキッチンに向かう。
と、その時、力登がむせ込んだ。
慌ててそばに行き、背中をさする。
「りき、落ち着いて」
そう言われたからといって、落ち着けるはずがない。
私は力登を抱き上げると、シンクでお湯を出した。
大きめのボウルにお湯を溜め、力登の顔を近づける。
「りき、もくもくしてるね」
ゲホゲホしながらも、顔に湯気の温かさを感じて、目を開く。
「りき、もくもくあったかい?」
力登が頷く。
昨夜は熱いと感じた息子の身体が、今日は少しひんやりする。
折角良くなってきたのに、私のそばにいては、また熱をぶり返すのではと思うが、仕方がない。
ゆっくりと麺を食べさせてから、残った汁に粉薬を混ぜる。これを気づかれないようにするのが大変。
ジュースやゼリーに混ぜるのを試したがうまくいかず、うどんの汁にたどり着いた。
医学的に良いか悪いか、効能が十分に発揮されるかなどはわからないが、飲まなかったり吐き出されるよりはましだろうという結論に至った。
「りき、もうちょっとねんねしようか」
「や!」
「え?」
「あぽー」
「あ~……」
心配していたことが起きてしまった。
力登が好きなのはわかっていたが、昨日は買わなかった。
時期的に高かったのもあるが、あまり美味しそうに見えなかったのだ。
代わりにバナナを買った。
「バナナは?」
「やっ! あぽー!」
力登が欲しいのは、りんご。
『りんご』をうまく言えなかった頃に、冗談半分で『あぽー』と教えたら定着してしまった。
「あぽーはないの」
見る見るうちに、息子の瞳が涙を浮かべ、瞬きするとぼろりと零れ落ちた。
「あぽ……」
買えばよかった。
昨日、バナナでもいいかと思ってしまった自分を殴りたい。
「ごめんね、力登。ママが元気になったら買いに行こうね」
「やっ!! あぽー!」
二歳児にしては少し言葉が遅い力登だが、今すぐにりんごが食べたい訴えはしっかりできている。
こうなると、ひたすら謝り倒して、他のもので気を逸らすか、泣き疲れて眠るのを待つしかない。
今日に関しては、前者が有効だろう。
寝て起きたばかりの力登が泣き疲れるまでの時間が予測できない。
「パパンは? 食べよ?」
「やっっ!」
だよね……。
薬が効いてきたら寝てくれるだろうか、なんて甘い考えはすぐに吹き飛んだ。
体調が悪いことが拍車をかけて、力登の鳴き声は思わず耳を塞ぎたくなるほど激しくなっていく。
「力登、お願いだから……」
頭が痛い。
体調不良の今は、いつも以上に泣き声が辛い。
「りき……」
抱きしめて見ても暴れて抵抗し、力登は本当にりんごがないのかを確かめにキッチンに走って行った。
そして、きっと、見つからなくてまたさらに大声で泣くのだろう。
あまり泣きすぎると、また熱が上がってしまう。
私は、りんごの代わりになる物を探そうと思い、のそのそとキッチンに向かう。
と、その時、力登がむせ込んだ。
慌ててそばに行き、背中をさする。
「りき、落ち着いて」
そう言われたからといって、落ち着けるはずがない。
私は力登を抱き上げると、シンクでお湯を出した。
大きめのボウルにお湯を溜め、力登の顔を近づける。
「りき、もくもくしてるね」
ゲホゲホしながらも、顔に湯気の温かさを感じて、目を開く。
「りき、もくもくあったかい?」
力登が頷く。