偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
「他の女と一緒にいるところを只野姫に見られたら、りとの協力が無意味になる。りとの元旦那に見られても同じだ。それに、俺はりとに興味がある。りとだって、たまには母親ではなく女扱いされたくないか?」
「そんなこと、考えたことも――」
「――ワンナイトとかシたことない?」
「ありません!」
だろうな。
どれほど仕事はきっちりこなせても、異性関係が爛れている人間なんて珍しくない。
俺も、その一人だろう。
だが、りとは違う。
仕事も私生活も異性関係も、割と神経質なタイプだろう。
「次にセックスする相手は、力登の父親候補?」
「え?」
「え?」
「せっかく独身なんだ。別に――」
「――ママ……」
俺とりとが揃って視線を落とす。
いつの間にか目を覚ましていたようだ。
ぼうっとしながら、俺のTシャツを咥えている。
「力登」
りとが息子を呼ぶ。
力登が母親を見て、パチリと目を開いた。
「ママ!」
母親に向かって真っすぐに伸ばされた、小さな力登の手。
その手を、りとが躊躇なく受け止める。
力登が座っていた俺の膝の上は、少し汗ばんでいて、温かい。
だが、すぐにヒヤッと寒く、というか寂しく感じた。
「りき、ぐっすり寝た?」
母親の腕に抱かれてご満悦の力登が、それまで俺にしていたように彼女の胸にぐりぐりと顔を押し付ける。
「ママはぁ?」
「ぐっすり寝たよ」
母親は偉大だ。
力登の無邪気な表情を見て、そう思う。
無条件で、絶対的に安心できる存在。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、ぐっと背筋を伸ばした。
「俺も、久しぶりに昼寝したな」
「しっちょー、おはよ!」
「おはよ」
力登の頭を撫で、その手で彼の視界を遮る。
そして、りとの腰を抱き寄せた。
「熱は、下がったか?」
「え?」
言い訳だ。
彼女にキスをするための。
俺は、ゆっくりと顔を寄せた。
強引な自覚はある。
だから、この前のように、彼女の反応を見た。
無理強いはしたくない。
今更だが。
戸惑いながらも、りとが目を閉じ、俺も目を閉じた。
唇が触れる。
優しく、柔らかく。
軽く彼女の下唇を食み、吸い付く。
「ん~~~っ!」
力登の呻き声がなければ、もっとずっとシていただろう。
俺は舌で彼女の唇をぺろりと舐め、離れた。
力登の視界を塞いでいた手も、離す。
「まだ、熱いな」
「誰のせい――っ!」
うっすらと涙を浮かべるりとは、とても年上には見えない。
可愛いな。
「ママ、いたい?」
「痛くないよ」
「ママ、いっこたべた?」
「ううん」
「あげっか!」
「りきがくれるの?」
「おう!」
母子の会話に、思わずククッと笑ってしまう。
「サイコーだよ、力登」
「おう!」
褒められたと思った力登のドヤ顔に、りとも笑う。