偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

 だが、それも一瞬だけ。

 りとの手が、俺の首に伸び、絡む。

 うなじをさわさわと撫でられると、もう、理性なんて吹っ飛んだ。

 彼女の靴を脱がせ、自分も脱ぐと、力登にするようにりとの尻を腕にのせて抱き上げた。

 りとの方が目線が高くなる。

 それでも、唇は離れなかった。

 腕も足も俺に絡み、離れる気なんてない意思表示されているようで嬉しかった。

 歩くと彼女の髪が俺の頬をくすぐり、その度に甘い香りが強くなって昂ぶりが増す。

 くちゅくちゅと互いの唇と舌が漏らす水音が熱を帯び、身体が熱い。

 寝室のドアを開け、俺は彼女を抱えたままベッドに上がった。

 りとの身体が俺のベッドに沈む。

 女を自宅に入れたことはない。

 来たがる女はいたが、プライベートスペースを曝け出してもいいと思える女はいなかった。



 なのに、なぜ、りとは連れてきた?



 きっと、数時間後には考えるのだろう。

 だが、今じゃない。

 今は、それどころじゃない。

 りとのニットの裾をめくり上げ、インナーをパンツから引き抜くと、無遠慮に素肌に触れた。

 そして、その手を奥へと撫で進める。

 りともまた、俺のジャケットの内側に手を入れ、ワイシャツのボタンを外していく。

 求めているし求められている。

 今は、それがすべてだ。

「りと……」

 瞼に口づけると、少し塩味がした。

「理人さ……」

 吐息にのせて囁かれた俺の名前は、甘く高く柔らかい響き。

 そんな風に思う自分が恥ずかしい反面、俺をそんな気持ちにさせるのは彼女だけだと思うと、それすら愛おしい。

 そう思うのに、そう言えないのは、ちっぽけなプライドなんかじゃなく、それを彼女が望んでいるかがわからないから。

 俺はりとの耳朶を咥え、咥えたまま舌先でチロチロと舐めた。

「ふ……」

 耳穴に吹き込まれる甘い吐息に、背筋がゾクゾクと痺れる。

 彼女の服の中で素肌を弄っていた手は、ようやく柔らかな膨らみを包み、揉みしだく。

 すべすべとした生地の下着の上からでも、尖りを感じ、親指と人差し指できゅっと摘まむと、自身の耳朶がぬるりと温かい感触に包まれた。

 指先で下着を引き下げ、直接硬く膨らんだ尖端を指の腹で圧し潰す。

「は……っん」

 もう片方の手で彼女の太ももに触れ、そのままパンツのファスナーを下ろした。

 そして、りとの肩を抱いて上半身を起こすと、ニットの裾を掴んでたくし上げ、首と腕を抜く。

 下着が半分ずり落ちた姿に、彼女が腕で胸を隠す。

 俺は背中のホックを外し、彼女の肩から紐を落とした。

 だが、彼女は胸の前で両腕を交差させ、緩んだ下着ごと胸を包んだまま。

 今更だが照明もなく真っ暗な中。

 りとの表情がわからない。

 かと言って、今は電気を点けるには相応しいタイミングではない。

 問答無用で押し倒してしまえばいいのだろうが、ここにきて急に冷静になった。



 今、りとはどんな表情(かお)をしている……?


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