偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
「真に受けたのか」
「……事実でしょう?」
「そんなの、こじつけだ」
りとが顔を背けたまま、視線だけ俺に移した。
「……ピザが冷める」
「力登を迎えに行く時間は?」
「連絡がなければ、七時頃」
「じゃ、いい。食おう」
立ち上がり、元の場所に座る。
食べかけのピザを口に入れると、既に冷めかけていた。
りとも正面を向いて座り直す。
「なにが、いいんですか」
「晩飯前なら、ピザ食ってる時間ないかなと思って」
「どうして?」
「もう一回スるから」
「なにを?」
「セックス」
「――っ!」
本当に、面白いくらい、面白い反応をしてくれる。
「早く、食え」
「そんなこと宣言されたら、食べにくいんですけど!」
「食べないなら、スるぞ?」
「食べます!」
笑いが止まらない。
りとが横目でじろりと俺を睨みながら、ピザを頬張る。
その表情が全く怖くないから、更におかしい。
「そういえば――」
俺は頬杖を突き、りとを見た。
「――楽しめたか?」
「なにを?」
「セックス」
彼女の唇がねじれていく。
「楽しませる自信があるなんて言った手前、正当な評価を――」
「――シた女にいちいちそんなこと聞いてるんですか!」
「いや? りとだけだ」
「なんでっ!?」
「またシたいと、思われたいから?」
こんな俺を、皇丞や欣吾には見せられないなと思った。
きっと、死ぬまでからかわれる。
俺自身、なんだか全身がくすぐったい。
だが、俺の言葉一つで赤くなったり青くなったり、涙目になったりするりとを見ていたら、癖になりそうだなと思う。
「改善すべき点は真摯に受け止め――」
「――業務連絡みたいに言わないで!」
「じゃあ、遠慮なく。悦かったか?」
「~~~っ!!」
業務用の笑みでそう言うと、りとはまたも口いっぱいにピザを突っ込んだ。
まったく、俺もヤキが回ったな。
「ま、言わなくてもわかってるけど」
好きな女をイジメる小学生か、と自分に突っ込みを入れたくなる。
好きな女……?
危ない。
そうじゃない。
恋人だ。
偽装だが。
今は、恋人だ――。