偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

「真に受けたのか」

「……事実でしょう?」

「そんなの、こじつけだ」

 りとが顔を背けたまま、視線だけ俺に移した。

「……ピザが冷める」

「力登を迎えに行く時間は?」

「連絡がなければ、七時頃」

「じゃ、いい。食おう」

 立ち上がり、元の場所に座る。

 食べかけのピザを口に入れると、既に冷めかけていた。

 りとも正面を向いて座り直す。

「なにが、いいんですか」

「晩飯前なら、ピザ食ってる時間ないかなと思って」

「どうして?」

「もう一回スるから」

「なにを?」

「セックス」

「――っ!」

 本当に、面白いくらい、面白い反応をしてくれる。

「早く、食え」

「そんなこと宣言されたら、食べにくいんですけど!」

「食べないなら、スるぞ?」

「食べます!」

 笑いが止まらない。

 りとが横目でじろりと俺を睨みながら、ピザを頬張る。

 その表情が全く怖くないから、更におかしい。

「そういえば――」

 俺は頬杖を突き、りとを見た。

「――楽しめたか?」

「なにを?」

「セックス」

 彼女の唇がねじれていく。

「楽しませる自信があるなんて言った手前、正当な評価を――」

「――シた女にいちいちそんなこと聞いてるんですか!」

「いや? りとだけだ」

「なんでっ!?」

「またシたいと、思われたいから?」

 こんな俺を、皇丞や欣吾には見せられないなと思った。

 きっと、死ぬまでからかわれる。

 俺自身、なんだか全身がくすぐったい。

 だが、俺の言葉一つで赤くなったり青くなったり、涙目になったりするりとを見ていたら、癖になりそうだなと思う。

「改善すべき点は真摯に受け止め――」

「――業務連絡みたいに言わないで!」

「じゃあ、遠慮なく。()かったか?」

「~~~っ!!」

 業務用の笑みでそう言うと、りとはまたも口いっぱいにピザを突っ込んだ。



 まったく、俺もヤキが回ったな。



「ま、言わなくてもわかってるけど」

 好きな女をイジメる小学生か、と自分に突っ込みを入れたくなる。



 好きな女……?


 危ない。

 そうじゃない。

 恋人だ。

 偽装だが。



 今は、恋人だ――。


< 61 / 151 >

この作品をシェア

pagetop