偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~
耳元で、掠れた声で囁かれると、熱い身体が更に熱くなる。
愛を囁かないセックスなのに、どうしてこんなに満たされるのか。
「理人っ!」
恥ずかしさなんて、吹っ飛ぶ。
悲鳴のような声を上げ、自らの腰まで揺らし、いつまでもこうしていたいと思ってしまう。
「あ~~~っ! ヤバいっ」
急に低い声で言われて、何事かと目を見開くと、理人もまた腰を止めて私を見下ろしていた。
「ど……し――」
『どうしたの』と聞こうとしたが、声が掠れて痞えてしまった。
「――大丈夫か?」
大丈夫じゃないのは彼の方。
汗だくで、苦しそうに眉をひそめている。
私が頷くと、ゆっくりと声を発した。
「だいじょ……ぶ?」
手を伸ばし、彼の頬に触れる。
理人がふっと笑う。
「カッコ悪りぃな」
「え……?」
「必死になり過ぎで」
「そんな……こ――」
「――なんで、こんな――」
理人が私を見て、でも私に向けたのではない言葉を呟いた。
「――な……に?」
「……」
彼は私をじっと見た。
ただじっと見られていると、さすがに恥ずかしくなって、顔を背ける。
「う……ぅ」
彼が呻き、それからハッと息を吐くと、上体を起こして私の足を脇に抱えた。
「そんなに締め付けて、催促してんの?」
「え!? そんなこと――」
理人が前髪をかき上げ、ふぅと息を吐きながら私を見下ろす。
その、少し目を細めた表情が色っぽくて、改めてどうしてこんなに格好のいい男に抱かれているのかと、不思議になり、興奮もする。
「――無意識?」
「え?」
両手で腰を掴まれる。
恥ずかしすぎる。
身体の中の彼に全ての意識が集中する。
小さく跳ねているように感じて、くすぐったい。
理人は私をじっと見たまま、動かない。
まるで、私の心を見透かすよう。
「なん――」
「――気持ちいいな……」
目を閉じ、肩を上下させてゆっくりと呼吸する。
毛先から汗が滴り、私の胸に落ちた。
男性の裸や仕草を綺麗だと思ったことなんてなかったけれど、今は思う。
只野姫が好きになるのもわかる……。
「なに、考えてる?」
「え?」
理人は表情を変えず、じっと私を見ている。
私は、恥ずかしさに顔を背けた。
「――時間が足んねーな」
耳元で、はぁっと艶っぽい息を吐かれ、まるで心臓が耳朶にあるように錯覚するほど耳がズキズキと熱くなる。
「出る前にシャワー浴びなきゃな」
そうだ。
力登を迎えに行かなければ。
私は起き上がり、ピザを食べる前に借りたTシャツを頭から被った。
夢の時間は、おしまい……。
そんな風に思う私は、きっと、母親失格だろう。
それでも、理人に抱かれたことで、私は満たされた。
「ありが……とう」
「……ん?」
「こんなに優しくされたの、初めてかも……」
そんなことを言う自分が恥ずかしくて、髪を耳に掛けながら俯く。
「理人の言う通り、独身に戻ったんだし、少しくらい遊んだっていいよね」
再婚なんて考えてない。
なら、後腐れのない関係を楽しむくらい、許されるのではないだろうか。
こうして、力登がいない時。
力登がいなくて不安な時くらい。
「あんた、そんな器用な女じゃないだろ」
頭が重くなる。
理人の大きな手が、私の頭を撫でた。
「あれは、まぁ、俺があんたを抱きたくて言った」
「どうしてそんなに――」