偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

 なんだかんだと言っても、わかっている。

 只野姫にも登さんにも見つからないように遊ぶことくらい、理人には簡単だろう。

 だから、わからない。

 なぜ、私にこだわるのか。



 こんな、年上の子持ちに。



「――どうしてかな。あんたを抱きたくてたまんなかった」

「……気が済みましたか」

 私らしくない。

 こんな、ひねくれた言葉。



 今更か……。



 理人の前では、私はいつもの私じゃなくなる。

 家の前で抱き合ったり、キスしたり、拗ねたり、泣いたり。



 こんなの、私らしくない……。



 もっと、毅然としていたい。

 力登と二人で生きていくのだから、私がめそめそしていてはいけない。

「後悔してるか?」

 頭から手のぬくもりが離れて、その反動のように顔を上げた。

 理人が、真顔で私を見下ろしている。

「後悔なんて――」

 首を振ると、彼はふっと笑った。

「――しばらくは、俺にしとけ」

「……え?」

「あんたには、セフレだのワンナイトだのは無理だ」

「あなたが言ったんじゃ――」

「――偽装でも恋人の俺で、いいだろ」

 良くない。

 だって、力登が懐いてしまっている。

 これ以上、理人と一緒にいたら力登が離れられなくなる。



 力登が……。



 違う。

 私も、だ。

 力登と同じくらい、私も理人に心を許してしまっている。

 力登と同じくらい、離れたくないと思ってしまっている。

「だめ……です」

 なんだか目の前がぼやけて見えて、理人の表情がわからない。

「これ以上は――」

 喉の奥がしょっぱい。

 花の奥がムズムズする。

「――だめ」

「どうして?」

 優しい声が、近づいてくる。

「だって――」

 逞しい掌が私の頬を撫でる。

「――やっぱり――」

 親指が瞼をなぞると、理人の顔がはっきり見えた。

「――別れがつらくなるから……」

 理人はちょっと困ったように笑い、私を抱きしめた。

「もう、遅いだろ」

 私も彼を抱きしめ返した。

 私はどうして泣いているのだろう。

 わからないけれど、いいやと思った。

 今は、もう少しだけこのままでいたいと思った。



 もう少しだけ……。




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