復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 ここ大公領は、帝都から西に向かい、途中魔獣の出る山を越え、馬車ならば一週間ほどかけて進んだ場所にある。

 城から見下ろす街は活気にあふれていた。

 人々の顔までは見えないが、行き交う馬車や人々の往来は見え、あちこちの煙突からは煙や湯気が立ち上っている。

 アレクサンドは、ふぅと長い息を吐く。

 領地が見渡せる烏城は、名前の通り外壁が黒い荘厳な城だ。

 住まうのは若き領主、大公アレクサンド。

 長きに渡る西国イデアルとの戦争に勝ち、つい三日前に帰ってきたばかりである。

 黒いガウンを羽織る肩幅の広い背中は逞しい。

 戦争の鬼と言われ、帝国でもっとも恐れられている彼だが、歳はまだ二十三だ。

 起き抜けのまま乱れた髪ゆえか、今は年相応に見える。それだけ寛げているのだろう。

 その証拠に、帰ってきた日は丸一日寝ていた。三日目となる今日も、もうすぐ太陽が真上に上る時刻である。

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