復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 にっこりと浮かべる笑顔も、心なしか寂しそうだ。

「あの――」

 ルルはポケットから小さな包みを取り出した。

 少しでも元気がでるといいなと思いながら、包みを差し出す。

「もしかしてハンカチか?」

「はい。ドラゴンの刺繍をしてみました」

 来週でいいと言われたが、いつまでも続けていては想いばかりがどんどん膨らみそうで怖かった。

 それに、ドラゴンに集中すれば悪い夢を見ないで済む気がしたのだ。

 頻度は減ってきたが、いまでも悪夢に襲われる。

 魔獣に襲われる夢。暗い窓のない部屋に閉じ込められる夢を見たときに、このドラゴンを思い出せるよう、脳裏に焼きつけた。

 悪夢と一緒に、胸に疼く身の程しらずな想いを、ドラゴンに燃やし尽くしてもらおうと思ったのである。

 そのかわり凝ってはいないが、大公らしさを考え、上を向いた赤いドラゴンが、青空を登っていくような図案にした。

 なんとか、ドラゴンらしい迫力のある刺繍に仕上がったと思う。

「凄いな」

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