復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 チラリと見ると、大公はまだしげしげとハンカチを見ている。

 もう少し時間をかけて丁寧に作ればよかったわと、少し後悔した。

(紫色の瞳か……。閣下が好きな女性は、どんな人なんだろう)

 帝都にいる貴族の令嬢なのだろうか。

 この地にいるなら、噂になっているはずだから。

 本当は私とではなく、紫色の瞳の女性とお祭りに行きたかっただろうに、などと、つらつら思いながら、リンゴの皮を剥く。

「あっ」

 うっかり指を切ってしまった。

「大丈夫か?」

 答える前に大公の手が伸びてきた。

 彼は手際よく布をあて、上から押さえつける。

「さあ、ここに座って。このまましばらく抑えていれば大丈夫だ。血が止まる」

「すみません……」

 ナイフを持っているのに考え事をするなんて。絶対にしてはいけないのに。

「気にするな。この程度なら誰もが経験しているさ」

 指先がジンジンする。

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