復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 戦場の鬼神と恐れられていたが、ひとたび屋敷に帰れば、妻のマリィや一人娘のルイーズを溢れんばかりの愛情で包み込んでくれる。

 そんな父と、身も心も美しくて優しい母の愛に包まれて、幸せいっぱいに育った彼女を襲った初めての試練は母の病だった。

「お母様、具合はどう?」

 ひと月前に倒れてからというもの、日を追うごとに母は衰弱していく。

「ええ、今日は調子がいいわ」

 にっこりと微笑むが顔色はあまりよくなかった。心配かけないように元気を装っているのだ。

 悲しさを心に隠し、母の優しい嘘にルイーズも「よかった」と合わせる。

 そして、大公アレクサンドが凱旋するのだと報告した。

「もしかしたら、一泊していかれるそうよ。お母様は、大公閣下の乳母だったのよね」

 母は、懐かしむように目を細めて微笑む。

「ほんの短い間だったけれど……。そう。戦争の英雄でいらっしゃるのよね」

 当時皇后だったアレクサンドの母が存命中、マリィは上級侍女として話し相手として宮殿に出入りしていた。

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