復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 乳母だった時期は皇后が亡くなってから。彼が六歳から七歳の短いひとときである。

 ふいにガランガランと、邸中の鈴が鳴った。

 貴賓訪問の合図である。

「あ、いらっしゃったみたいね」

 侍女とふたり、両脇をささえるようにして母を窓辺にいざなう。

 屋敷の正門の方を見て首を伸ばせば、長いアプローチを進んでくる騎馬の集団が見えてきた。

 皆、黒いマントを羽織っている。

 皇太子の地位を捨て、大公になったアレクサンドは、まだ二十歳。

 輝くオーラを剣にまとわせて魔獣も倒すというソードマスターだ。

 彼は十六歳にして戦地に赴き、それ以降ほとんど戦いに明け暮れていたため、社交界で彼の姿を知る者は少ない。

 ルイーズのデピュタントとなった宮廷での舞踏会に彼は出席している。

 ダンスが始まって間もなく姿を消してしまったので、そのときは声も表情すらもわからなかった。

 ルイーズは、胸を高鳴らせながら、先頭をいく馬上の人物をジッと見つめた。

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