復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
「あとでご挨拶に伺うと、母が申しておりました」

「どこが悪いのですか?」

 眉を曇らせたアレクサンドが公爵を振り向く。

 公爵が小さく「心臓が……」と呟くように言う。

 つらそうな父の姿に胸が痛んだ。

 先日、偶然に両親の会話を聞いてしまった。

『君が命を削って力を使ったから――。すまない、すまないマリィ……』

『謝らないで、あなた。力と私の寿命は関係ないわ。私の心臓が弱かっただけよ』

 母には聖女の力という治癒力があった。

 知っているのは公爵とごく一部の使用人だけだ。ルイーズも最近になって聞いた。

 父は戦争から帰るたびに怪我を負い傷を残して帰ってきた。特に重傷だったのは二カ月前に帰ってきたときだ。

 アレクサンドとともに前線で戦っていたときに、脇腹に深傷を負い、意識不明の状態で騎士に運ばれ帰ってきたのである。

 母は力をすべて使い、寝ずの看病をした。

 おかげで父は奇跡の回復を遂げたが、入れ替わるようにして母が倒れた。

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