復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 いずれにしろ、公子の事件をきっかけにランベール家は求心力を失った。

 動いたのはアレクサンド大公か、あるいは北の要塞モラン公爵という話もある。

 モラン公爵は長く中央の政治から離れている。父の代から中立を守っているはずが、最近ときとき帝都に顔を出しているという。

 なにを考えているのかわからないモラン公爵の髭面を思い浮かべ、眉間に皺が寄る。

 さっさと鎮圧できない近衛兵にも不満だし、そうこうするうちにアレクサンドが戦争を本当に終わらせてしまった。

 まさか、西の強欲な王が、油田をあきらめるとは。

 アレクサンドが戦地から離れるのはまずい。

 一日も早く会って、なんとか今度は侵略戦争でもしてもらわなければならないのだ。大義名分は考えてある。それなのに――。

「あの生意気な秘書め」

 巻き毛の赤髪を思い出し、ディートリヒはきりきりと奥歯を噛み締めた。

『大公はただ今領地で疲れを癒やしております。今少しお休みを頂いてからご挨拶に伺うとのことです』

< 143 / 202 >

この作品をシェア

pagetop