復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 ただピエールが驚くように、少々性急ではあった。

 昨夜も、無理はしないつもりだったはずが――。

(いや、あれはルルが悪い)

 あんなふうに潤んだ瞳で、『ちっとも怖くなんかないです』なんて言われたら、じゃあいいよな?となるに決まっている。

 女のイヤは、言葉通りじゃないと言うが、昨夜のルルは。

「ん? なんだよ。顔になにかついているか?」

「にやけすぎです」

 ピエールに睨まれて、コホンと空咳でごまかす。

「いいだろ。幸せに浸ったって」

「あー、もう。どうぞどうぞ、溺れるほど浸ってください。仕事さえしてくれれば、水死してもかまいませんから」

 笑いながら、どうかしているよなと思う。

(俺は今、やっぱり叫びたいくらい幸せなんだ)



 午前中はなんとか仕事をこなし、昼食はルルのもとへ行く。

 ゆっくり休ませるよう侍女に伝えておいたから、もしかしたらまだ寝ているかもしれない。

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