復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 小声で聞くと侍女は「フルーツだけですが」と答えた。

「わかった。昼食の用意を頼む」

「はい」

 侍女はそっと部屋を出ていき、アレクサンドはルルの側に向かった。

 薔薇の花束をテーブルの上に置き、ルルの傍らに立つ。

 ほんの少し開いた唇が、無防備だ。

 ドレスの隙間から首筋と胸もとに虫に刺されたような赤い痣がある。

 今後は少し場所を考えてあげようと思う。

(男どもを刺激してはよくないからな)

 頬にかかる髪を直していると、ルルが目を覚ました。

 眩しそうに、アレクサンドを見上げる。

「――閣下?」

 まだ名前で呼ぶのは慣れないのか。

 夕べはさんざん『アレックス』と言ったはずなのに。

「昼食をとろう。それともまだ眠いか?」

 眠いはずだ。気を失うように寝て、起きてはまた抱いてを、朝まで繰り返してしまった。

 寝ずに戦っていたアレクサンドとは体力が違う。

 細い体で、溢れる情熱を受け止めるのは、かなりきつかったはず。

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