復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
「ふたりでって、ルル。お前は閣下と」

 ルルは左右に頭を振った。

「それは無理よ。だって私は悪女〝ルイーズ〟だもの」

「なにを言ってるんだ、それは――」

 父の言葉を遮った。

「閣下は帝国の太陽よ。皇帝になる方なのに、汚点を作ってはいけないわ」

 自分だけならいくらでも耐えられる。

 でも、大切な人が、自分のせいで後ろ指を指されるのは、なによりもつらい。

「一度ついてしまったレッテルはそう簡単に剥がせないわ。お父様だってわかっているでしょう? あのとき……」

 宮廷の舞踏会。バルコニーで男に襲われ、ルイーズはドレスの胸もとを引きちぎられた。

 ディートリヒが勢いよくカーテンを開き、ルイーズは乱れた格好を衆目に晒された。胸は露わになっていないし、ディートリヒがカーテンを閉じるまでの、短い時間だったが。

 ルイーズはあの瞬間〝傷モノ〟になったのだ。

 社交界の目は厳しい。被害者であろうと、ドレスを破かれただけでなにも奪われていなくても関係ない。

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