復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 言われてみればひしひしと視線を感じた。

「そろそろ呼ばれますよ」

 ピエールが言った通り侍従が来て、アレクサンドになにかを告げた。

 いよいよかと、背中に緊張が走る。

「ルル、挨拶に行くぞ」

「はい」

 振り返ったときから、ディートリヒはジッとルルを見つめたままだ。

 玉座に肘をかけ、まるでうれしそうな微笑みを浮かべて見えるが、ルルにはわかる。

 はらわたが煮えくり返るほど彼は苛立っているはず。

「ルル、大丈夫か?」

 アレクサンドが心配そうに見下ろす。

「はい。ぜんぜん平気です」

 笑顔で答えた通り、自分でも驚くほど冷静だった。

 怖くはない。

(魔獣と比べたら、あなたなんかネズミと変わらないわ)

 王冠をかぶり、ドラゴンになったつもりのヘビだ。

「よし、じゃあ一気にいくぞ」

「はい」と答えてから、はて?と首を傾げた。

 一気にいくとはどういう意味か。

 今日の舞踏会は、あくまでもルルがルイーズであると含みを持たせるだけのはず。

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