復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 ディートリヒの頭には自分しかない。

 プライドばかりが高く、プライドを守るために己の殻に閉じこもる。

 子どもの頃、どんなに剣術をがんばってもアレクサンドに敵わないとわかると、ディートリヒはまったく稽古をしなくなった。

 負けを認めるのも人に知られるのも嫌だから背を向ける。そうやって大人になったが、自分には権力以外誇れるものがない。

 根拠のない高いブライドを満たすため、皇帝の地位を渇望したんだろう。

 皇太子になってもなお、父を信じられずに――。

 なんと愚かな。

 ふと、外からキィー、キィーというハヤブサの泣き声がした。

 念のため外を見れば、鷹匠が訓練しているようだ。

 亡くなった父はハヤブサが好きだった。ハヤブサのようにときに鋭く。豪快で自由で、悪人になる度量があって。

 悔やみきれない思いが、奥歯でギリッとが音を立てる。

(許さない)

 絶対にと、心密かに誓う。

「――それで? 些細なことでいい、ほかにはないか?」

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