復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 カンタンの屋敷の庭で、彼女は木陰でひっそりと泣いていたという。

「でも人前ではまったくそんな様子は見せないで、いつもニコニコしているんですよ」

 なるほど同情したわけかと納得した。

 ピエールには同じ年頃の妹がいるからよけいだろう。

「身元の手がかりになるものは身につけていなかったようですが、もしかしたら彼女、貴族の家で働いていたのではと思うんですよ」

 カンタンからも、そんな話は聞いていた。

 ルルは庶民では目にしない魔法具をなんの抵抗もなく、使いこなしたという。

 言葉遣いから考えて帝国の者には違いなく、おまけに丁寧な言葉遣いは上流階級を連想させる。

 だか、使用人らしからぬ、白魚のような手から考えられるのは……。

「貴族という可能性はないのか?」

「ないでしょう。念のため調べましたが、帝国の貴族で行方不明者に該当しそうな令嬢はいませんでしたから。髪と瞳の色に特徴がありますしね」

「それもそうだな」

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