復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 大公が観衆に向き直り右手をあげると、大きな歓声が沸き起こった。

 遠くからでもわかる、彫刻のように綺麗な顔立ち。きらりと光った赤い瞳。マントの内側は赤くて、大きな漆黒の馬がまるで血を被ったような生々しさがあったけれど、恐怖は感じずむしろ神々しいとさえ思った。

 震えるほどの感動を思い出し、胸がドキドキする。

『いいなぁルル』

『ルル、人手が必要なときは私に言ってね!』

 先輩の侍女たちに散々羨ましがられた。

 女性の憧れの的なのも当然だと思う。

(あんなに素敵な方なんだもの)

 ある先輩の『あの逞しい胸に抱かれてみたいわ』との発言を思い出し、ふいに彼の剥き出しの上半身が脳裏に浮かんだ。

 さっきも割れた腹筋に厚い胸板がはっきり見えた。

 自分とはまったく違う男性ならではの逞しい体躯に、うっかり目が釘付けになってしまう。

「ああ、もう恥ずかしい」

 ポッと頬に火がつき、脳裏から追い出そうと慌ててプルプルと左右に首を振る。

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