復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 美味しいという返事はもらえなかったが、顔をしかめるでもなかったから、たぶん不味くはなかったと思う。

 執務中も何度か運んだが、下げるときはいつも空だ。不味ければ残すだろうし。

「もう来るなと言われたりしませんか?」

「えっ? い、今のところ、来るなとも言われませんが……」

 ドキドキしながら報告すると、侍女長はようやくホッとしたように肩の緊張を緩めた。

「そう、よかったわ。引き続きがんばりなさい」

「はい。がんばります」

 そのまま侍女長とふたり、並んで歩いた。

「でも、私などで本当によろしいのでしょうか」

 ルルはこの城でひと月しか働いていないし、ほぼすべてが不慣れと言っていい。

 おまけに記憶喪失という訳ありな存在である。

「いいのですよ。そもそも先任が退職してから、かれこれ十人ほどが候補にあがりました。ですが大公を怒らせなかったのはルル。あなたが初めてなんですよ」

 ギョッとして侍女長を振り向いた。

「怒るんですか? 閣下が?」

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