復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 いつも穏やかな彼が怒るだなんて想像できない。

 侍女長は大きく溜め息をつく。

「ええ。眉間に皺を寄せて〝もういい下がれ〟と、言われたらおしまいです」

 眉間に皺……と考えて、書類を睨んでいる大公を思い浮かべた。

 だいたいいつも縦皺をよせているが、あれは怒っているのか?

「よいですか? ルル。あなたしかいないのです。自分を卑下したりせず、その調子でよろしくね」

「はい。わかりました」



 朝食の後片付けを済ませた後、掃除のために大公の部屋に戻った。

 侍女長の話を聞いたあとなので、恐る恐るノックをしてから入ったが、大公は不在のようである。

 忙しい彼は、着替えてすぐ下の階にある執務室に行ったのだろう。

 ホッとして肩を落とす。

「眉間に皺を寄せて〝もういい下がれ〟か……」

 侍女長はああ言ったが、どんなふうに言うのだろう。

 今のところ怒った彼は想像できないが、きっと迫力満点に違いない。

 できればずっと遭遇せずにいたいものだと思いながら、シーツを変えた。
< 45 / 202 >

この作品をシェア

pagetop