復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 それにルルは帝国語の読み書きに加え、古代語や西国の言葉も自在に扱える。状況から察するに、高い教育を受けたのは間違いない。

 だが、帝国の貴族に該当する行方不明者はいないという――。

「ふぅ」

 シーツの交換を終えたところで、ルルはモップを手に窓際に行き、青い空を見上げた。

 広がる空の下の、どこかで生きていたのだ。

(私はいったい誰なのかしら)

 知りたさ半分、知りたくない気持ち半分。心は定まらない。



「だめだめ」

 パンパンと頬を叩く。

 もう考えないと決めたのだ。

 気を取り直し、シーツや洗い物を「よいしょ」とまとめていると、扉が開いた。

(あ、閣下)

 ごくりと息を呑む。

 主人にとって侍女は空気のような存在だ。あえて声に出さず、会釈で挨拶に代える。

「ルル、着替えを手伝ってくれ」

「はい」

 彼はまっすぐ衣裳部屋に入っていく。

 衣裳部屋に駆け付けると、上着を脱いだ彼は、白いシャツだけになる。

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