復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 赤いマントを翻し、高い靴音を立てながら離れていく後姿を呆然と見つめながら、ルイーズはなにが起きたのか。今、彼がなにを言ったのか理解できずにいた。

 優しい両親に愛され、純粋な心のまま育った彼女には、底知れぬ人間の欲望と憎悪を想像できなかったから。



 ディートリヒが地下牢を訪れてから一週間後。

 ルイーズは地下牢を出され箱のような荷馬車に乗せれた。

 ガタガタと音を立てながら馬車が進む。

 馬車に窓はなく、どこを走っているかはわからないが、行き先は知っている。

『西の塔』と呼ばれる恐ろしい牢獄だ。

 大半が獄中死を遂げ、生きてでられた者は皆、精神を病むという、誰もが恐れる塔である。

 いっそすぐに殺してくれたらいいのにと思う。

 病状だった実母は、ルイーズが宮廷に入る少し前に亡くなってしまった。なんとかひと目だけでも父に会いたかったが、許されなかった、

 涙も枯れ果て、今となってはこの世に未練も、なんの思い残しもない。

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