復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 安心しろなんて言わせてしまうなんて、侍女として失格だわと反省する。

 溜め息はつかないようにしなきゃと考えて、ふと――。

『溜め息をつくと幸せが逃げるのよ』

 誰かの優しい声が脳裏を過ぎった。

 ときおり思い出す温かい声の記憶。

 もしかしたら、母なのだろうか。

「ん? どうかしたのか?」

「あっ、いいえ、なんでもありません」

 慌ててフルフルと首を左右に振る。

「ならいいが、なにか気になるなら忌憚なく言うんだぞ」

「はい。ありがとうございます」

 大公はソファーに腰を沈め、長い脚を組んで肘掛けに腕をかけた。

 テーブルの上のグラスを手に取り水を飲むと、背もたれに体を預けてゆったりとしている。

 全身から気品が溢れていた。

 服装のせいもあるのかもしれないが、さすが皇族だわと感心してしまう。

「城の生活は慣れたか?」

「はい。おかげさまですっかり慣れました」

 先輩たちは皆優しい。

 厳しい人もいるが、少なくとも意地悪な人はひとりもいない。

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