復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
「ありがとうございます。この地の領民を代表して、よろしくお願い申し上げます」

 ふざけているわけではなく、真剣な表情のまま頭を下げたカンタンは執務室を出て行った。

(悪いな。もう少し待ってくれ)

 扉の向こう側へ消えてカンタンの背中に、心で謝った。

 結婚より先にやるべきことがある。

 だが、アレクサンドは胸の内をまだ誰にも打ち明けていない。



 とはいえ結婚も、避けては通れない道だ。

 再び溜め息をつき、封書の宛名をいくつか見た。

 名だたる貴族の名前ばかりだが、どこの家門の令嬢も思い浮かばない。

 これまでろくに社交活動もしていないのだ。令嬢がこぞって参加するような舞踏会にも、久しく行っていないのだから、知らなくて当然だろう。

 背もたれに体を預け、記憶を呼び起こした。

 あれは四年ほど前か。

 戦争の報告するために宮殿にいたアレクサンドは、たまたま舞踏会に出席し、久しぶりにマリィと言葉を交わした。

『大公閣下、大層ご立派になられて』

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