復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 マリィは涙を流して成長を喜んでくれた。

 ゴーティエ公爵夫人マリィは、二代目の乳母だ。

 最初の乳母は宮廷に向かう途中の事故で亡くなっているが、本当に事故だったかはわからない。なにしろアレクサンドの母であった当時の皇后には権力がなく、乳母を守る力もなかった。

 アレクサンドの母は、敗戦国から貢ぎ物のように嫁に来た孤独な皇后で、マリィは唯一の友人でもあった。

 母が亡くなったとき、心から悲しんでくれたのはマリィだけである。

 初代乳母、侍女、母と、次々と不穏の死を遂げる中、マリィが無事だったのは、ゴーティエ公爵家が大きな権力を持っていたからだろう。

 とはいえ、宮廷ではなにが起きるかわからない。アレクサンドが九歳になったとき、彼女の身を案じ、自ら父に乳母はもういらないと進言し、解任している。

 マリィと会話を交わしたのは十数年ぶりだった。

『そなたも元気そうでなによりだ』

< 63 / 202 >

この作品をシェア

pagetop