復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 健康そうに見えたが、マリィはすでにこの世にいない。彼女は病に倒れ一人娘ルイーズを残して亡くなったのである。

 アレクサンドは、マリィの娘ルイーズの記憶をたどった。

 マリィと再会した舞踏会では、十六歳を迎えたルイーズのデピュタントでもあった。

 緊張にほんのりと赤く染めた頬にはまだ幼さが残っていたが、母は帝国一の美女と謳われた女性だけあって、彼女もまた抜きん出て美しかった。

 絹の糸のような煌めく銀髪は、光の加減で空のように青く輝き、アメジスト色の瞳はまるで宝石のようだった。肌は抜けるように白く、恥じらいだ深窓の姫君といった風情で踊る様は、まるで妖精のようだと言う者もいた。

 おまけに帝国で最も権力のあるゴーティエ家の姫である。

 非の打ち所がない花嫁候補のダンスの相手は、アレクサンドの四歳下の弟、当時十七歳の第二皇子、皇太子で現皇帝ディートリヒ。

 アレクサンドはその様子を冷えた目で一瞥し、会場を後にした。

 当時アレクサンドの心は戦場にあった。

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