復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 令嬢たちの初々しい華やかさは、人々の血の海に浮かぶ幻影である。

 一度も戦地に行こうとせず、享楽的で贅沢にしか関心のない父や弟たち。欲と虚飾にまみれた貴族ども。すべてがくだらない茶番劇だと映った。

 ルイーズの恥らいだ笑みも陽炎の中に霞んで消えた。



 次にルイーズを見かけたのは、それから二年後か。

 戦地からの一時帰国で、公爵邸に立ち寄っている。

 公爵夫人のマリィはすでに余命宣告をされるほど衰弱していた。

 聖水の力を借りたのか晩餐には出席し笑顔を見せていたが――。

 今になって思い出す。

 マリィが乳母を辞める挨拶に来たときだ。幼いルイーズの手を差し出し『殿下、ルイーズをどうぞよろしくお願いします』と頼まれた。

『わかった。この娘は俺が必ず守ってあげるよ』

 子どもの約束とはいえ、しっかりと覚えている。それなのに。

 どうせ恋愛などする気がないのなら、早くにルイーズを迎えにいき、彼女と結婚すればよかった。ディートリヒと彼女が婚約する前に。

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