復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 そうすれば、少なくともあんな事件は起きなかった。

 宮廷に入って変わっていったと言われているが、彼女の真意は誰もわからない。どんな証言があろうと、そのまま信じる気はなかった。

 せめて、西の塔に彼女が無事到着していれば助け出せたのに。

 もしくは戦争を早く終わらせていれば、森を越える途中で救えたのだ。

(マリィ、すまない……。約束したのに)

 唯一の恩人ともいえる乳母の願いを叶えられなかったという自責の念が、アレクサンドの胸に深く影を落とす。



 気を取り直し、なんとか書類の山をひとつ片付けたところで、執務室の扉が静かにノックされた。

 ルルがカートを押して入ってくる。

 時計を見ればいつの間にか昼だった。

 カートには料理が並んでいる。スベアリブに焼きたてのパン。瑞々しいフルーツの山。今日はピエールが出かけていているので、ルルはアレクサンド用のコーヒーだけを淹れ始める。

< 66 / 202 >

この作品をシェア

pagetop