復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
 ルイーズを乗せた護送の馬車は魔獣の死骸とともに見る影もなく潰れていたという。

 馭者も衛兵も逃げ遅れ、無惨な遺体となって発見されたのだ。よほどの奇跡でも起きない限り、ルイーズだけが助かるとは到底思えない。

 後悔からくる記憶の揺らぎだと、心でかぶりを振る。

 フィンガーボールで指先を洗いルルが差し出すタオルを受け取ると、またしても彼女の指先が目に留まった。

 貴族の女性たちのように爪を伸ばしてはいないが、やはり綺麗な手だ。

 労働者の手にしては綺麗すぎると、また余計なことを考えてしまう。

「もしお手伝いできることがありましたら、なんでも申しつけてくださいませ」

「ん?」

 ルルはモジモジしながら机に視線を向ける。

「書類の山がまた増えたようなので……」

 確かにと苦笑した。

 昨日ランベール公爵と入れ替わりにピェールが帝都に向かったため、仕事が滞っている。

「そういえば、ルルは読み書きができるんだったな」

「はい」

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