復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
(いや、そうでもない)

 ときどき帰ってきて、街で飲んだりした。

 そのときどきで色んな女と出会っているが、こんなふうに思ったのははじめてだ。

「もしかして、そのカバン、自分で刺繍をしたのか?」

 ルルは柔らかい生地の布カバンをさげている。カバンのふたの部分には花の刺繍がしてあった。

「はい。刺繍をしていると時間を忘れてしまうんです」

「そうか、――上手だな」

 ありがとうございますと頬を染めるルルの笑顔に、ルイーズの笑顔が重なって見えた。

 ゴーティエ公爵邸に立ち寄ったあの日、彼女が落としたハンカチを拾った。

 花の種類は違ったと思うが、同じような図案の刺繍だったと思う。

 恥じらうように『ありがとうございます』と笑みを浮かべた彼女は、刺繍が趣味だと言っていたはずだ。

 ハンカチは微かに濡れていたような気がする。

 彼女は泣いていたのかもしれない。

「なぁ、ルル。俺にもくれないか?」

 気が急いだ。

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