復讐は蜜の味 ~悪女と言われた公爵令嬢が、幸せを掴むまで~
グロワール帝国を地図で見ると、西側は山に沿って大きくせり出していて、隣国に食い込むような形をしている。
そのせり出した西に位置する大公領は、帝国が直轄する土地の四分の一を占めるという帝国内でも圧倒的に広い領地だ。
初代皇帝が建てた〝烏城〟と呼ばれる難攻不落な城もあり、平野もあるし土壌も悪くない。
だが、国境では西国との争いが絶えず、北を振り向けば魔獣が棲む山もあり、西国との戦時中の要塞として機能する以外は、せいぜい魔獣専門の猟師や人目を忍ぶならず者しか寄りつかない不穏な土地とされていた。
山頂に残る雪は青くかすんで見える。
美しい眺めだ。
この時期の山裾には、木々が青やピンクの花をつける。
とても魔獣が棲むようには見えない美しさに、人々は心を奪われる。
それこそが魔獣の魔力だともしらずに、近寄ってしまうのだ。