大好きな君と大嫌いな君
ずっと、ある男の子が頭の中から離れなかった。
強くはないけど、優しくて暖かい子。背が高くて色白な子。
最初は、なんとなく目で追っているだけだった。別に好きという感情はその時点ではなかった。本当のことだ。つまり、一目惚れではなかった。
ただ、ぼーっと何かを見る時に、その男の子のことを見ることが多くなった。
そんな風に見つめている回数が増えた時——唯《ゆい》からこんなことを言われた。
「なんか、最近気になることがあるんだけど……」
唯は私の目を見ながら言った。唯は私の友達だ。
「何?」
私は冷たい口調で言った。どうして、冷たい口調だったのかは忘れてしまった。体調が悪かったのか、もしくは機嫌が悪かったのか。どちらにしても、唯に対して嫌な気持ちを抱いていたわけではない。
「瞳、ずっと、悠里のことを見つめてない?」
瞳は私の名前だ。
「……そ、そんなことないよ。それに、瞳で見つめないと、どうやって見つめたらいいの?」
「そういう変な冗談はいらない。……私、すごく気になるんだけど」
「何が気になるの?」
「いや、悠里のこと好きなのかなって」
「好きじゃないよ!」
「好きじゃないのに、見つめているっておかしくない?」
「だから、そもそも見つめていないんだって!」
「そんなことないよ。私が瞳のことをどれだけ気にかけているのかわからないの? 瞳は、何かあるとすぐに悠里の方を見ているよ。正直、嫉妬しちゃうな」
「どうしてよ?」
「だって、私の方を見る回数より、悠里を見る回数の方が多い気がしてさ」
「友達のことをジロジロ見たりしないよ」
「へぇー。友達のことは見ないのに、あまり話したことない悠里のことは見るんだ」
この時、唯はちょっと怒ったような表情だった気がする。
「だから、悠里のことは見ていないって! ほら、悠里は前の方の席でしょ? んで、私は後ろの方の席!」
「……それが、どうかしたの?」
「だからね、黒板を見ていると悠里が目に入ってくるわけ!」
「なるほどね。……黒板を見るついでに悠里を見ているってことか」
「違うって!」
私は首を横に振った。